サブスクリプションは、単なる課金形態の変更ではなく、ビジネスモデルの変革である。本書の前半では、小売り、メディア、運輸交通、新聞・出版、テクノロジー、製造など各業界のサブスクリプション企業の事例が紹介されている。ここではその中から3つの事例――ギター、クルマ、新聞――を取り上げる。
サブスクリプションがもたらしているのは、企業と顧客との新しい関係だ。これまでの売り切りのモデルでは、製品を誰が買ったのか、どんな使われ方をしているのかについて、企業はほとんど知る術を持たなかった。それに対してサブスクリプション企業は、顧客(サブスクライバー)一人ひとりと向き合い、直接的かつ継続的な関係を築いている。
その好例として挙げられるのが、エレキギターのつくり手であるフェンダーが始めた「フェンダー・プレイ(Fender Play)」という、定額利用のオンライン教育動画サービスである。ギターは難しい楽器で、購入してもほとんどの人が初心者の段階で離れていってしまう。そこでこのサービスでは、ギター初心者が最初のリフや曲を30分程度でマスターできるよう個別に指導する。
ここで重要なのは、学習を通じて顧客と継続的に対話をすることだ。これは顧客を単なる「ギターの所有者」として見るのではなく、「生涯にわたる音楽愛好家」として見るということを示している。
クルマの場合、サブスクリプションは従来のリースとどう違うのか。
リースは特定のクルマに限定されるが、サブスクリプションではさまざまな車種に乗り換えられる。たとえばポルシェであれば、6つの車種から選ぶことが可能だ。またリースだと保険は自分で入る必要があるが、サブスクリプションでは登録、保険、保守といった厄介な手続きは無用である。燃料を入れること以外はすべて含まれており、契約が終わったときに買取らなくてもいいし、下取り価格を気にすることもない。クルマのメンテナンスについては、自動車メーカーのほうで気を遣ってくれる。
やがて来る自動運転の時代には、朝起きてから夜眠りにつくまで、あらゆる移動が1個のID(個人認証)だけで済むようになるだろう。そのときに顧客をロックインする(固定化する・囲い込む)のはどの会社か。サブスクリプションでのしのぎ合いは、その前哨戦ともいえる。
2008年、とある雑誌は「新聞は死につつある」と宣言した。当時はオンラインの広告収入をベースにした無料コンテンツがジャーナリズムの世界を席巻し、やがて紙の新聞の息の根を止めるのではないかと危惧されていた。
ところがここにきて、デジタル版の新聞の購読者が飛躍的に伸びている。もともとサブスクリプション(定期購読)は、新聞や雑誌のビジネスモデルであったが、それがデジタルになって戻ってきたのだ。
たとえば『ニューヨーク・タイムズ』紙をつくっているのは、物理的な紙とインクではなく、ジャーナリストたちに他ならない。それはブランドであり、文化であり、価値観そのものである。その真の価値は内容にあるのであって、紙かオンラインか、あるいはモバイルかといったフォーマットにあるのではないのだ。
『ニューヨーク・タイムズ』ではすでにサブスクリプションによる収入が、広告収入を上回った。すなわち広告主ではなく、より読者の目線で記事を届けられるようになったというわけだ。
もしあなたが新しいアプリの開発に成功したスタートアップ企業であれば、サブスクリプションはビジネスの前提となるだろう。
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