誰でも手持ちのリソースを使えば、仕事や暮らしをもっと充実させることができる。目の前の「未開拓の価値」を活用する方法が身につけば、これまで想像もしなかった可能性が次から次に開かれるはずだ。
著者は幅広い業界の組織を10年以上にわたって調査し、なにが組織を繁栄させ、従業員を裕福にさせるのかを研究してきた。その結果わかったのは、リソースの使い方やリソースに対する考え方が、仕事上の成功や個人的な満足、組織のパフォーマンスに大きな影響を及ぼすということだ。
ところが私たちの多くは、リソース獲得の重要性を過大評価する一方で、手持ちのリソースを活用する自分の能力を過小評価する傾向がある。
人や組織がこうした考え方を改め、リソースを最大限に活用して大きな成果と達成感を得るためには、「ストレッチ」という考え方を知り、その極意を習得するのが近道だ。ストレッチとは、多くのリソースを望むのではなく、手持ちのリソースの可能性を受け入れ、それを行動の手がかりとする考え方と技能である。
ストレッチ習得の第一歩は、「豊富なリソース=優れた成果」という誤った発想を捨てることだ。とかく私たちは、リソースは多ければ多いほどいいと本能的に思いがちである。「ジリ貧の製品にてこ入れするには、マーケティング予算を追加せよ」「学校をよくするには先生を増やせ」といった具合だ。だが実際は、むやみにリソースを追い求めたところで、大した結果をもたらさないことも多い。手元にあるリソースのポテンシャルを見逃してしまうからだ。
ストレッチのメリットについて知るため、42年間も逃亡生活を続けた一家の話を紹介しよう。
シベリアの地質学者は1978年、半世紀近くも前に行方を絶ったルイコフ一家を偶然発見した。宗教迫害から逃れた一家は、人里離れた未開の地に身を落ち着け、社会から完全に孤立して、第二次世界大戦の勃発も終戦も知らぬまま過ごした。
逃亡生活の間に生まれた次男と次女は、発見されるまで家族以外の人間と会ったことさえなかった。現代文明と無縁の一家は、手持ちのリソースで生きていくしかなかった。だから彼らは、ジャガイモの皮や松の実の殻で家の床を、麻の種子から衣服をつくった。そして限られた生活環境に適応し、手に入る数少ないものを生活必需品に変える方法を見出していった。
これは極端な例だと思うかもしれない。しかし人は必要に迫られ、工夫してやりくりすれば、信じられないようなことを成し遂げるものだ。なんらかの制約や制限に直面したとき、「ストレッチャー」は制約があるからこそ創造的に行動し、結果的に問題解決にたどり着く。手持ちのリソースに可能性を見出し、上手に活用・改善するストレッチャーになれば、どんなときでもベネフィットを享受できるのだ。
ストレッチとは対称的に、絶えずなにかを追い求めるアプローチを「チェイシング」と呼ぶ。チェイシングに依存しがちな人(=チェイサー)にとって、大事なのはリソースの「獲得」であり、彼らは手持ちのリソースの「活用」には目もくれない。
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