著者は過去20年、主に2つのテーマで人材開発の研究を行ってきた。1つは、新入社員など経験の浅い人の早期育成だ。もう1つは、管理職やマネジャーになったばかりの人を一人前にするためのサポートである。キャリアのステップアップに関するこれらの研究は、いわば「登山の研究」だ。
一方、近年、著者が力を入れている研究は「長い人生を完走し、キャリアを全うするための研究」である。山を登るような研究に対して、下山あるいは再登山の研究といえよう。ここでの下山とは役割交代や仕事の変更を指す。また、再登山とは新たな目標を掲げて違った役割や組織で働くことを意味する。
著者がこの研究を始めた背景には「仕事人生の長期化」がある。平均寿命は年々延びる一方だ。仕事を続けて自分自身を守っていく必要があり、少なくとも、仕事人生が長くなるのは確実といえる。
そんな中、下山や再登山が上手くできない人が存在する。彼らに共通する特徴は、「学び直すこと、変化することから逃げている」という点だ。時代の変化に従い、新たなスキルや知識の習得を怠った結果、長期化する仕事人生に対応できなくなるのである。
そこで重要となるのが「大人の学び」だ。大人の学びの目的は、行動によって得た経験を元に次のステージを見据えて変化することである。これからの時代に求められるのは、絶え間ない好奇心や興味を駆使して、変化する環境に自らを適用させる柔軟性だ。
大人の学びのポイントは、今後のキャリアを「自ら決める」姿勢である。決して他人や組織任せにしない強い意志が必要だ。しかし、私たちの多くは、これまでに大人の学びの方法について誰からも教わっていない。
海外と比較したとき、日本の大人の学びの現状は悲劇的ともいえる。たとえば、英語圏には日本のような社会人大学院は存在しない。そもそも海外の大学に通う年齢層はもとから様々で、大学院ともなれば、40代、シニアとさらに世代が幅広いのは当然といえる。海外の人々にとって、学びはより望ましいキャリアへ進むために一生続けるものである。
いまの社会は変化が目まぐるしい。学び続け、自分自身を変化させるための根本となるのが、「大人の学び」3つの原理原則である。
「大人の学び」3つの原理原則とは、「大人はどのようなときに学べるか?」を理解することである。学びの基盤となる考え方だ。
1つめは「背伸びの原理」である。成長の源泉は、いまの能力では少し難しく、しかし実現不可能ではないと感じることに向けた背伸びにある。ルーティンワークやタスクなど、余裕で対応可能な作業の繰り返しではなく、かといって難しすぎてもいけない。自分自身を常にモニタリングし、コンフォートゾーン(快適空間)とパニックゾーン(緊張空間)の間にあるストレッチゾーン(成長空間)に身を置くことが求められる。
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