要約の最初に、著者の経歴を紹介しておきたい。
著者は複数の企業を創業しており、そのうち1社を上場させた。有名な本の監訳、翻訳、執筆、海外講演の経験もある。運営しているブログの累計読者数は数百万人にのぼる。いわゆる「成功者」の知り合いが多く、彼らの強みや弱みを深く理解しているという。
そんな著者は、この世の中は実力主義ではないと指摘する。実力がある人ではなく、実力があると周囲に錯覚させることができる人がよいポジションを手に入れられるのだという。ここでいう錯覚とは、「人々が自分に対して持っている、自分に都合のいい思考の錯覚」のことであり、「錯覚資産」として機能する。複数の思考の錯覚が掛け算されると、錯覚資産の威力は増していく。
錯覚資産を持っている人は有能だと認識され、よりよいポジションや成長のチャンスを与えられる。そしてよい環境の中で本当に実力をつけていき、やがて本当に実力のあった人を追い抜いてしまう。つまり錯覚資産によって手に入れた環境で実力がつき、そこで出した成果がさらなる錯覚資産を生むという構図になっているのだ。
成功するかどうかのほとんどは運次第で決まる――そう言われるとどう感じるだろう。どうしても直感的に理解できないのではないだろうか。実はそれも思考の錯覚の一種だ。人間は、運も実力だという思考の錯覚にとらわれている。そして一度思考の錯覚にとらわれてしまうと、とらわれているという事実になかなか気づくことができない。
思考の錯覚は認知バイアスによって引き起こされる。認知バイアスとは、認知心理学の用語だ。認知バイアスが「ゆがんだレンズ」なら、思考の錯覚はそれによって引き起こされる「見間違い」に該当する。
認知バイアスの一種にハロー効果というものがある。ハロー効果とは、なにか一点優れている人がいたとき、その人がすべてにおいて優れているように見えてしまう錯覚のことをいう。この錯覚による誤った認識や判断は社会的強者に都合がいいものなので、ハロー効果なしに社会生活を成り立たせることはできないといっていい。だが、あなた自身の人生の選択をするときには、判断を誤るわけにはいかない。思考の錯覚を除去し、正しい判断を下せるようになろう。
運はコントロールできない。だが、思考の錯覚と運を運用することで、成功の確率を上げることは可能だ。たとえば起業家があるサービスをヒットさせたとしよう。ここでハロー効果が働く。人々はその起業家が全体的に優秀で、次も成功する確率が高いと錯覚する。多くの資金が投資され、人材も集まってくるだろう。メディアも積極的に情報発信してくれるし、期待感が醸成されてユーザも増える。その結果、次のサービスも成功をとげるというわけだ。失敗は成功の母だというが、成功こそ成功の母なのである。誰しも成功の理由を運ではなく実力だと錯覚するからだ。
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