CXは、2000年頃から欧米で注目され始めたコンセプトである。CXの定義は、「商品やサービスを購入する過程、利用する過程、その後のサポートの過程における経験的な価値(心理的・感情的な価値)」とされる。
日本では、「顧客経験価値」「顧客体験価値」と訳される。企業側には、企業目線・企業都合ではなく、徹底的に顧客目線・顧客本位で価値提供することが求められる。
コトラーによると、顧客が受け取る価値は、特定の商品やサービスの顧客が期待する利益や見返りを総合した「総顧客価値」から、顧客が商品やサービスを評価・獲得・使用・処分する際に発生すると予測したコストの総計である「総顧客コスト」を引いた価値となる。総顧客価値、総顧客コストのいずれにも、心理的・感情的な価値が含まれている。
CXにおいては、心理的・感情的な価値の付加が差別化・競争力の源泉となる。バーンド・H・シュミットは、著書『経験価値マネジメント』で、心理的・感情的な価値を次の5つに分類している。
Sense(感覚的)は顧客の視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった知覚(五感)を刺激する経験のこと。美しい外観・心地よい音楽・落ち着く匂い・美味しい・良い手触りなどを価値として提供する。
Feel(情緒的)は顧客の内面の感覚・感情に訴求する経験のこと。かっこいい・かわいい・安心・信頼・感動・熱狂などを価値として提供する。
Think(知的)は顧客の創造性や知的欲求に訴求する経験のこと。興味深い・勉強になる・面白い・自分を高められるなどを価値として提供する。
Act(行動、ライフスタイル)は顧客の行動やライフスタイルに訴求する経験のこと。今までにない・普段の生活では体験できない価値を提供する。
Relate(社会性)は顧客に特定の集団や文化に属しているという感覚を訴求する経験のこと。所属への誇りや特別感などを価値として提供する。
著者は、「CSを拡張・強化したものがCXである」と定義している。CSとは顧客満足度のことであるが、CSは収益と相関性が低い。一方、一般的に顧客ロイヤルティが高ければ収益に好影響をもたらすことがわかっている。つまり、CSでは顧客ロイヤルティが測定できないのである。
米国の世論調査会社ギャロップによると、CSで「非常に満足」と回答した顧客は、「合理的に満足」と「感情的に満足」の2つに分けられるという。感情的に満足した顧客は、企業に収益をもたらす行動をとる。しかし、合理的に満足した顧客は、不満の顧客とあまり変わらない行動をとるという。
「合理的に満足」とは、商品・サービスの機能、性能、価格、情報の豊富さなど、物理的・実質的な価値に対する満足を指す。つまり、良いか悪いかが判断基準となる。それに対し、「感情的に満足」は、安心、信頼、尊重、敬意など、顧客の心に訴えかける経験的な価値に対する満足であり、好きか嫌いかが判断基準となる。
顧客離反においても、感情的に満足している顧客は、合理的に満足している顧客と違って顧客ロイヤルティが高い。そのため、多少、商品・サービスの機能や性能が劣っていたり、価格が高かったりしても、簡単に他社の類似商品・サービスに乗り換えることはないと考えてよい。
CX戦略の3つのキーワードは、「エンパワーメント」「クローズド・ループ」「トップマネジメント」だ。
第1のエンパワーメントとは、権限委譲のことである。コンプライアンスの名のもとで厳しい統制を敷き、画一的・均質的な接客を行うことは、相手に応じた接客の妨げとなる。これにより、不満を抱く顧客も出てきてしまう。
一方、CXに取り組んでいる企業は、現場の社員への権限委譲を積極的に進めている。権限委譲することで、接客プロセスの自由裁量の度合いが大きくなり、相手に応じた接客を行える。これにより、高い顧客評価を得られるというわけだ。
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