会計の世界史
会計の世界史
イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語
会計の世界史
出版社
日本経済新聞出版社

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出版日
2018年09月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「誰にも書けなかった『会計エンタテインメント』爆誕!!」――本書を手に取ると、この帯コピーが目に飛び込んでくる。その横には「数字のウラにある、驚くべき人間ドラマ!」とある。これらのコピーは、会計知識を持たない要約者の背中をやさしく押してくれた。

本書は、簿記や財務会計、管理会計、ファイナンスの歴史をストーリータッチで解説した一冊である。帯にあるように、数字のウラに隠れた人間ドラマがいきいきと描かれているのだが、人間ドラマだけでなくその時代の芸術や象徴的な出来事と絡めて語られているのがポイントだ。たとえば「簿記と会社の誕生」と題された第1部。ここでは15世紀イタリアの「銀行革命」と「簿記革命」、17世紀オランダの「会社革命」が紹介されるのだが、そこに「最後の晩餐」をはじめとした3枚の絵画が巧みに絡められている。

本書で取り上げられるのは15世紀イタリアから21世紀のアメリカまで。一見会計とは関係がなさそうなレオナルド・ダ・ヴィンチやカール・ベンツ、ビートルズまで登場し、小説を読むようにページをめくっていけば自然と会計の歴史が理解できるしくみだ。「会計の歴史を学ぶぞ!」と意気込んで手に取った本書だが、思った以上にスラスラ読めて、楽しく学ぶことができた。本書はまさに「会計エンタテインメント」の傑作である。

著者

田中 靖浩(たなか やすひろ)
田中靖浩公認会計士事務所所長。産業技術大学院大学客員教授。
1963年三重県四日市市出身。早稲田大学商学部卒業後、外資系コンサルティング会社などを経て現職。ビジネススクール、企業研修、講演などで「笑いが起こる会計講座」の講師として活躍する一方、落語家・講談師とのコラボイベントを手掛けるなど、幅広くポップに活動中。
主な著書に『実学入門 経営がみえる会計』『良い値決め 悪い値決め』『米軍式 人を動かすマネジメント』(以上日本経済新聞出版社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    簿記は15世紀のイタリアで誕生した。簿記は、銀行が融資や回収、為替手形の発行や決済といった取引記録を付けてその記録を他の支店にも共有するために、そして、記録を残すことによってともに働く人たちや取引相手とのトラブルを防ぐために生まれた。
  • 要点
    2
    減価償却は、イギリスの鉄道会社で誕生した。減価償却が生まれたことにより、巨額の固定資産投資をしても利益を出し、株主へ配当することができるようになった。
  • 要点
    3
    アメリカに大陸横断鉄道が登場してしばらくすると、鉄道会社各社の合併が始まった。それにともない連結決算が行われるようになった。

要約

【必読ポイント!】 簿記の誕生(15世紀イタリア)

為替手形でキャッシュレス取引を実現
Kritchanut/gettyimages

いまから500年ほど前、イタリア商人はさかんに東方貿易を行っていた。東方貿易は、香辛料・ワイン・茶・陶器・織物を中国やインドからイタリアへ持ってきて、それらをヨーロッパ各地へ運ぶというものだった。

イタリア商人は東方貿易によって大いに儲けたが、海路の道のりは危険だった。海賊に襲われる危険があったからだ。当然ながら、行動範囲が広がれば広がるほど、扱う金額が大きくなればなるほどその危険は大きくなった。

そのリスクを軽減するためにバンコ(銀行)が提供したのが、「為替手形」取引である。為替手形の登場によって、商人たちはキャッシュレスで取引できるようになった。

商人は、商品の仕入れ、販売、為替手形の受け渡しの記録をつける必要があった。同様にバンコも、融資や回収、為替手形の発行や決済といった取引記録を付け、その記録を他の支店にも共有しなければならない。こうした背景から、中世イタリアで簿記の技術が誕生した。このころ、ヨーロッパ経済の中心はイタリアにあったのだ。

帳簿による支店管理

当時、トップ・バンコの座についていたのがメディチ銀行である。メディチ銀行は、ロンドン、ブリュージュ、リヨン、バルセロナ、ジュネーブなどヨーロッパ各地に拠点を持っており、顧客からするとそのネットワークの広さが魅力であった。商人たちはメディチ銀行のネットワークを利用して、ヨーロッパ各地でキャッシュレス取引を行っていた。

メディチ銀行にとっては、ネットワークを拡大すればするほど、支店を管理する必要が生じる。この時代に電話やインターネットはない。メディチ銀行が遠隔地の支店を管理するために取った方法は、本部を権限に集中させることをやめ、各支店に分権化させることだった。支店の支配人に経営権限の大部分を委譲し、フィレンツェ本部は支店経営や与信管理にはほとんどかかわらないしくみを取っていた。フィレンツェ本部は、支店新設の判断などといった大きな問題に専念していたという。

支店の支配人は大きな経営権限を持っていたが、その活動の詳細を帳簿へ記入することが義務づけられ、帳簿を手に定期的にフィレンツェ本部を訪ねていた。帳簿があったからこそ、フィレンツェ本部は各拠点に経営を任せることができたのだろう。

簿記でトラブルを防止
AndreyPopov/gettyimages

ヴェネツィアの船乗りたちはプロジェクトごとに人と資金を集めていた。プロジェクトが終わると儲けを現金化し、メンバーも解散するというしくみだ。しかしこれだと1度の航海ごとにゼロからやり直さなければならず、無駄が生じてしまう。

彼らはやがて、

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要約公開日 2019.02.01
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