本書は、スーパー望遠鏡「アルマ」を創造した人たちの物語だ。
アルマが建設されたチリ周辺のアタカマ砂漠は、観測史上一度も雨が降ったことがないとさえいわれる、世界で最も乾ききった場所だ。アルマが宇宙の彼方から受け取る電波は、大気中の水蒸気に吸収されてしまうため、地上では受信することが難しい。宇宙に電波望遠鏡の展望台を打ち上げることが理想だが、アルマのような巨大な望遠鏡を打ち上げることは不可能だ。そこで、宇宙に最も近い環境であるとして、アタカマ砂漠が選ばれたのだった。
「電波」で宇宙を「観測」するというのはいったいどういうことか。星は、目に見えない、波長の異なるたくさんの電磁波を発している。星が発する電波を調べれば、そこにどんな化学物質があり、どのようにつくられているか、そこに生命があるのか、水はあるのかといったことを知る手がかりになる。電波を観測すれば、可視光では得られない宇宙に関する多くの情報が得られるというわけだ。
アルマが取り組んだのは、一般に利用されている「電波」より波のうねり(波長)が短い電磁波帯、「サブミリ波」だ。サブミリ波は、可視光線を発していない極低温の天体からも発せられている。その冷たい世界を見ることができれば、あらゆる物質がいつつくられ、星がどう誕生したか、さらには私たちがなぜここにいるかという問いへの答えを得られるという期待があった。
アルマには、宇宙が誕生したビッグバンの後、130億年前に発した電波も入ってくる。電波も光も1秒間に30万キロメートルの速度で進むが、地球に届く電波は「過去」のものだ。130億年もかけて宇宙を旅してきた電波をコンピュータで処理すれば、宇宙の開闢(かいびゃく)後の様子を垣間見ることができる。その電波を詳しく調べれば、宇宙での物質の誕生や、星の進化も知ることができるかもしれない。アルマはある意味ではタイムマシンでもある。
アルマが受信している電波はとても微弱だが、宇宙を見る眼の解像度は0.01秒角、視力に換算すると6000にもなる。6000とは、東京から大阪にある1円玉がくっきりと識別できるほどの視力に相当する。
この解像度と視力は、日本のモノづくりの成果だ。山麓施設のアンテナ組み立てエリアでは、日米欧で区切られて作業をしていたが、各国の作業エリアのつくりはそれぞれに異なっていた。米国は格納庫のような建屋で、欧州は仮設工場で作業を進める中、日本のエリアは野ざらし状態であった。予算が限られていたため、組み立て工場の設営を諦めたのだ。日本で組み上げたものを分割してから現地に送り、再び組み上げるという方法を採用することにした。
3,400冊以上の要約が楽しめる