「声優」という言葉はかなり古くからあったようだ。戦後にテレビが普及し、海外ドラマや洋画のテレビ放送が取り入れられ、『バークにまかせろ』の主役を若山弦蔵氏、アラン・ドロンの吹き替えを野沢那智氏が担当するなど、声と俳優がセットになっていった。これがのちに「第一次声優ブーム」と言われた時代である。
けれど、演じたのは舞台俳優などが多く、声優は「役者」としての活動の一部と考えられていた。そのため、現在50代以上のベテラン声優たちは、役者として生きてきて声優にたどりついたという感覚の人が多いようであり、著者もそのひとりである。
昔であれば、同じ演技・表現の世界でも、歌なら歌、映画なら映画、芝居なら芝居と、境界線のようなものがあったが、現在はすっかりボーダーレスだ。著者は演じることがとにかく好きで、声優はもちろん、生のお客を相手にした舞台にも立ち、精力的に活動を行っている。声優であれ、他の演技であれ、入り口は違っても、演じることの難しさ、楽しさは役者としての共通の魅力だろう。
アニメ業界では、レギュラーのアニメ番組はいまも昔も収録日が決まっており、キャストが一堂に集まって、アフレコが行われる。
基本的に週に1回、2時間半~3時間で1話ぶんを収録する。収録開始時間はおおむね平日、だいたい午前は10時から、午後は16時からである。著者がばいきんまん役を務める『それいけ!アンパンマン』も、約30年前の放送開始から毎週同じ曜日・時間で収録をし続けているという。
ひとりのためにスケジュール変更をすることはなく、都合が合わなければ別の人がキャスティングされる。そのため、あるレギュラーのアニメ番組に出演している場合は、それと同じ収録日の別作品には出演することができないため、アニメ業界は「まず収録日ありき」な部分がある。収録日はオーディションを受ける役柄などにも関わってくる大事な要素だ。
声優の仕事はオーディションが基本である。新人、人気声優、ベテランなどは関係なく、オーディションを受けないと始まらないのだ。
オーディションは事務所を通して募集がかかるため、事務所に入っていない若手や新人にはチャンスすら与えられないということになる。また、事務所ごとに応募できる枠も決まっている。
オーディションに参加できたとしても、「オーディションは落ちて当たり前」で、それは十分に頑張っている人たちにとってもそうなのだ。
そもそも実力のある順番通りにキャスティングされるのであれば、オーディションは必要ない。ひとつの作品は、声優以外にも、作画監督、音楽など様々な人・要素が合わさってひとつの世界観をつくる。作品内のバランスを考えたとき、主要人物のうち2人の声質が似ていれば、別の声質の人が選ばれる場合もある。キャスティングもアンサンブルなのである。だから、オーディションに落ちても「たまたまダメだった」と思って、必要以上に落ち込む必要はないという。
アフレコ現場ではチームワークが大切だ。『それいけ!アンパンマン』は長年同じメンバーでやっているため、既にチームワークができあがっている。しかし、そこに若い声優などがゲストで入ると、
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