貧困街に生まれたミシェルは、幼い頃から利発で、物事に対して自分の納得する理由を求めるタイプだった。合格した高校は、シカゴ初の、マグネットスクールと呼ばれる特別な英才教育を行う公立高校である。しかし、 入学当初のミシェルには「自分は十分なのか」という不安がつきまとった。 周囲のみんなが賢そうに見え、黒人中心の学校で優秀だっただけの自分は、「底辺の上澄み」なのではないか。そう感じたのだ。
しかし、ミシェルは高校でも成績がかなり良かったため、自信がつき、いつしかその不安はなくなっていった。大学は兄の通うプリンストンに進みたいと考えたが、初めての進路指導でカウンセラーからこう告げられた。「プリンストンに行けるほどの成績だと思えない」。もしカウンセラーのアドバイスを受け入れていたら、ミシェルはまた「自分は不十分」という不安に駆られることとなっただろう。しかし、彼女はそうしないと決めた。自分は優秀なはずだと信じ、他の信頼できる人にアドバイスを求め、努力した。そうして見事、プリンストン大学の合格を勝ち取ったのだ。
1980年代頃のプリンストンは白人が中心で、男性の比率が高かった。黒人女性であるミシェルは、明らかに浮いていた。初めての白人中心のコミュニティに戸惑いを隠せない。当時、大学寮のルームメイトだった一人が、一人部屋へ移ったことがあった。後になってわかったことだが、その理由は、「娘が黒人と同室になった」という事実にショックを受けた母親からの抗議によるものだったのだ。
ミシェルは大学でとにかく勉強した。時間をかけてやるべきことに取り組めば、貧困街の生まれというハンデはなかったことにできると信じて。
自分のことを「賢くて分析好きの野心家」だと考えていたミシェルは、弁護士の素質に気づく。そして、ハーバード・ロースクールへの進学を決め、一流法律事務所の弁護士になった。「もう自問するべきことはないはず」。ミシェルはそう思っていた。弁護士になって、山を登り切ったのだから。
そんなある日、事務所のシニアパートナーから、夏の学生インターンの教育係をやってほしいと頼まれた。そこでミシェルのもとにやってきたのが、バラク・オバマだ。
バラクはインターン前からすでに、「逸材」として事務所内で噂になっていた人物である。初日から遅刻してきたバラクに対し、ミシェルは最初は良い印象を抱かなかった。しかし、バラクは物怖じしないひたむきな態度で、ミシェルとは対照的に自分の生き方に自信を持っている。そんな姿にミシェルは惹かれていく。
メンターとして週に1度は昼食をともにし、徐々に互いへの理解を深めていったミシェルとバラク。ある日ミシェルは、バラクから「僕たち、付き合うべきだと思う」と告白される。最初ははぐらかしたものの、バラクのアプローチはとまらない。会社のイベントを2人で抜け出したり、パーティーでは2人で行動したりするなど、つかず離れずの関係が続く。バラクに強く惹かれているという事実は、もはや否定できないほどになった。バラクがインターンを終えてロースクールへ戻る前、道路脇でアイスを食べながら2人はキスを交わすのだった。
交友関係も広く優秀だったバラクは、『ハーバード・ロー・レビュー』という名誉ある雑誌の編集長に選出され、ニューヨーク・タイムズで取り上げられた。それを機に、バラクには大量のチャンスが押し寄せた。給料の良い弁護士事務所も選び放題だったが、バラクは人権派弁護士になるという信念を貫くこととなる。
一方、ミシェルは、自分が弁護士に向いていないと認めざるを得なかった。そもそも弁護士になろうとしたのは、人から承認されたいという欲求が少なからずあったからではないか――。大学からロースクールまで休まず勉強し、学生ローンも抱えていたので、そのことを認めるのは悲しかった。しかし、弁護士を辞めて自分の幸せになれることを見つけようとする選択について、バラクだけが前向きに応援してくれた。
バラクが司法試験を終えたお祝いのディナーの席で、ミシェルはバラクからサプライズでプロポーズをされた。ミシェルはシカゴの市役所の行政職に転職し、バラクも法律事務所から内定が出た。2人は結婚し、ハネムーンもすませ、順風満帆な新婚生活が始まるかに見えた。ところが、ミシェルにとっては予想外のことが起こる。
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