定額聴き放題の音楽ストリーミングサービス「Spotify」が台頭するなど、この数年で音楽・映像作品の消費形態は大きく変わった。日本レコード協会によると、日本の音楽サブスクリプション(以下、サブスク)の市場規模は、2014年から2018年までの5年間で11.3倍にまで拡大したという。そして現在、このような市場規模拡大の動きが、様々なサブスクリプションビジネスにおいて見受けられる。
最近になって急に拡大しつつある新しいサブスクモデルは、有形商品を扱っているケースが多い。その点で、駐車場の月極め契約など、以前から存在するサブスクモデルとは大きく異なっている。新しいサブスクモデルには三つのポイントがある。
一つ目は、「メーカーの参入」だ。従来のサブスクビジネスを運営するのは小売・サービス業が主であった。これに対し、近年では大手メーカーの参入が相次いでいる。
二つ目は、サブスクに「シェア」の概念が組み込まれていることだ。例えば、車や衣類などの使い回しが可能な商品に関しては、顧客が好みや状況の変化に応じた商品を利用できるよう、商品をシェアするサービスが台頭している。
三つ目は、「個別カスタマイズ化」だ。AIやマスデータを駆使して顧客それぞれの好みを割り出し、それに応じてカスタマイズされた商品を顧客に個別に届けている。
消耗品の定期購入など、従来のサブスクモデルを「サブスク1.0」とするなら、こうした特徴を持つ新サービスは「サブスク2.0」と言えるだろう。
サブスクモデルが広がっているのは、「衣」「食」「住」「(移)動」「楽(しむ)」の分野である。現状では、確実にサブスクモデルを成功させる法則は見えていない。
しかし、日本では人口減少に伴い、新規顧客の獲得が難しくなり、既存顧客維持の重要性は高まる一方だ。そして、消費トレンドは「所有」から「使用」へと移り変わっている。このような変化のもとでは、モノの作り方や売り方も全て変えていく必要がある。本書の編集部が考えるサブスク2.0で提供すべき価値は、「新しい消費体験」「圧倒的な利便性」「コスト優位性」の三つだ。
ラクサス・テクノロジーズが手がける「ラクサス」。これは、月額6800円(税別)で、エルメスやプラダなどの高級バッグが借り放題というサービスだ。会員の平均継続率は95%に達し、2015年2月のサービス開始時に加入した会員の半数以上が、継続利用している。つまり、LTV(顧客生涯価値)は今も伸び続けているというわけだ。
この圧倒的な支持の背景にはワケがある。多くの人はネットショッピングの際、他のサイトで値段などを比較し、お得な買い物をしようとする。同社社長の児玉昇司氏はこの状況を、「選ぶ苦しみに時間を費やしている」と表現している。
また、レンタルサービスの商品を返却する際、心理的抵抗を伴うことが多い。このことを知っていた児玉氏は、サービスを定額制にした。送料などの追加料金を支払わず、気軽に何回でもバッグを無料で交換できるようにし、またその返却期限をなくしたのである。これにより、ラクサスは「選ぶのが大変」「返すのが嫌」という利用者の不満を解決してみせた。
ラクサスでユニークなのは、クレーマーや商品の使い方が荒い顧客に対して、厳しい措置をとる点だ。クレームを受けた担当者が、その顧客の言葉使いが荒いと判断した場合には、一回で利用停止処分となる。また、バッグの発送前に写真を撮っておき、AIが返却後のバッグの状態と比べる。その際に使い方が荒いと判断された顧客も一発退場させる。
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