効率化を進めていく中で、チーム内のゆとりがなくなり、息苦しい職場になってしまったという経験はないだろうか。効率化によってそこそこの成果は上がっているかもしれない。だが、その状態を放置したままだと、やがてチームが崩壊してしまう恐れがある。それはなぜか。
人間関係が希薄なチームは、仕事を進めるうえでの情報共有はしていても、成果に直結しない話をする余裕がない。すると、一緒に働いている人たちがどんな人たちなのかを知る機会もないままだ。組織が経済合理性だけを求めていると、そこで働く人も経済合理性だけを求めることになる。すると、従業員の自社への愛着が育たず、他にもっと条件の良さそうな会社があれば、簡単に転職してしまうかもしれない。
転職しなかったとしても、そのようなチームでは、たとえ誰かが困っていても手を差し伸べることが少なくなる。さらには、困ったときに他人に話しかけることをためらってしまうだろう。相談できないことで、聞けば一瞬でわかることがわからず、大きな手戻りが発生したり、チームの生産性が下がってしまったりする恐れもある。そのほか、チームで働く意義が感じられない、弱みを見せることができない、新しいことに挑戦しなくなるなど、相談できない状態がチームに悪影響を及ぼしていくのである。
もちろん効率化が全面的に悪いわけではない。まったく効率化されていないチームの場合は、まずは業務の見直しや改善に取り組むべきだ。ただし、その際、数字で目に見える部分や、すぐ効果の出る部分にだけ力を注いでいると、数字に現れていない部分が欠落してしまう。
効率化を実現した高い生産性と、アイデアあふれる創造性を兼ね備えたチームをつくるにはどうしたらよいだろうか。その指標として最近注目されている言葉が、「心理的安全性」である。心理的安全性とは、チームの中で気兼ねなく安心して発言や行動ができる、つまり心理的な不安がない状態を指す。
心理的安全性の高いチームでは、次のような効果を得られる。「気軽に相談できるから、生産性と品質を高められる」「弱さを見せ合えるから、お互いの強みを活かし合える」「自由に発信できるから、新しいアイデアが生まれる」といった内容だ。会議などのかしこまった場ではなく、リラックスした雑談の中では、突拍子もないことをいっても受容される空気がある。こうしたときにこそ、新しいアイデアが生まれるのだ。
ホウレンソウ(報告・連絡・相談)のうち、報告と連絡は過去の出来事の共有である。これだけでは、未来に向けた発展的な議論の余地がないといえる。たとえば、新規事業のアイデアを出したいときやチームワークを高めたいときには、報告と連絡だけでは不充分だ。
雑談がなければ、社内で起きていることがわからない、社員の心のモヤモヤを知ることができないなどと、様々な問題が起きるだろう。それなのに雑談は、ホウレンソウのように重要視されていないのが現状だ。
そこで、チームを支える、非公式なコミュニケーションの出番である。雑談と相談を合わせて、著者は「ザッソウ」という新しいコンセプトを提示する。相談を兼ねた雑談に、新しく名前をつけることで公式な共通認識にしようというのだ。
ザッソウの効果とは、雑談と相談の境目をなくすことで、チーム内のコミュニケーションを円滑にし、全体の生産性を高めることである。「ザッソウ」は気軽に話をするきっかけとなり、相談のハードルをグッと下げてくれる。まずは、ザッソウが自然と生まれてくるような人間関係や環境づくりに力を注ぎ、そこからザッソウの習慣を広げていくようにしたい。
なぜ今、ザッソウが求められているのか。その理由は次の3つである。
1つ目は、再現性の低い仕事が主流になってきたからだ。そうした仕事には創造性が欠かせない。チームのメンバーと雑談したり相談したりすることが、高い創造性を発揮するのに役立つ。
2つ目は、フラットな組織が広がったことである。従来の組織のように上下関係があると、報告・連絡の関係になりがちだ。だが、フラットな組織では、対等な仲間との雑談や相談が大事になってくる。
そして3つ目は、働く人の多様化する個性と価値観である。1on1ミーティングのように、一人ひとりの多様性を受容し、つないでいく場が必要となり、ザッソウがその土台となっていく。
ザッソウを導入する目的は、成果を上げることである。「雑談は有効だ」と免罪符を得たからといって、仕事を忘れて雑談ばかりしていてはよくない。それでは、成果を上げるザッソウの使い方とはどのようなものだろうか。
まず、打ち合わせの場合は、最初は雑談から入って場を温めるといい。とくに初対面の場合は、お互いに「話ができる相手」だと確認するために、雑談をすることが効果的だ。
また、顧客との会議を円滑にするためには、直前にチームのメンバーと雑談することで、認識を合わせることができる。会議後にカフェなどに寄って、記憶が薄れる前に互いの考えや感触をすり合わせるのもよいだろう。
粘りに粘って締め切り直前になってから相談すると、報告のような感じになってしまったことはないだろうか。これでは、相談された側もアドバイスをしにくい。完璧を待ってから相談されるより、雑な感じで相談されるくらいがちょうどいい。
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