世の中は「組織の時代」から「個の時代」へと変わりつつある。「個の時代」とは、フリーランスになることや起業することを必ずしも薦めるものではない。会社組織に属していても、一人ひとりが信念や目的意識を持って仕事をしなければならない社会になるということだ。
戦後の高度経済成長期を支えた終身雇用や年功序列といったシステムは、制度疲労を起こし始めている。生涯で1つの仕事、1つの会社という時代は終わりつつある。一方、テクノロジーの発展により、ソーシャルメディアやクラウドファンディングなど、個人と個人をつなぐ基盤ができている。そして、個人単位で活躍する場が広まり、会社組織中心から個人中心へと、社会は大きく変化しているのだ。
しかし、個人中心の社会でも、人は組織やコミュニティなしでは生きていけない。複数のコミュニティを行き来しながら、個と個がつながっていく。そのつながりから新しい価値が創出されていくだろう。そこで、個と個をつなげるツールとして、「自己紹介」を見直す必要がある。
組織構造には、ピラミッド型とプロジェクト型の2種類がある。ピラミッド型は社長をはじめとするトップが君臨し、細かくヒエラルキーを形成する組織だ。旧来型の組織ともいえるだろう。一方、プロジェクト型は、管理する人間を最小限に抑え、必要に応じてスタッフを外部から呼び込んで編成する組織だ。プロジェクトが完了すると、チームも解散となる。プロジェクトに応じて、それぞれの道のプロフェッショナルを招集するのだ。
昨今では、プロジェクト型組織が注目されており、「役職」よりも「役割」が重視されるようになっている。社長や部長といった役職ではなく、自分に何ができるかという役割を意識し、チームで仕事をするようになるからだ。自己紹介もそれに合わせて、「役職」ではなく「役割」を軸にしなければならない。
また、世界の最先端企業では経営戦略の主軸は、「プロフィット(利益)」から「パーパス(目的)」へと変化している。「パーパス」は、顧客、従業員、外部パートナーやその家族など、その企業に関わるすべての人が共有できる唯一の価値を指す。金銭的な報酬だけでなく、「会社は何のために存在するのか」「なぜこの会社で働くのか」が重要となる。それゆえ、あらゆる企業が、社会全体に貢献する目的意識を持ち、発信しなければならない。
個人にとっても、「自らの目的」がこれまで以上に問われるようになる。自己紹介を考えることは、自分だけのパーパスを見つける一歩となるだろう。
今後は人生100年時代を迎える。人生を「教育」「仕事」「老後」の3つの段階で考えた場合、必然的に「仕事」の期間が長くなる。会社や職種自体が先に寿命を迎えるケースも増えるだろう。すると、個々人が様々な職業を経験し、複数のキャリアを持つ可能性が高くなる。
こうしたマルチキャリアの時代では、人の職業や職種といった肩書きが1つに固定されることは減っていく。自己紹介においても、世界の変化に応じて自分自身を流動的に変化させ、いくつもの肩書きや職業を使い分けることが求められるだろう。
さらに、これからは「越境する力」が求められる。それぞれの専門領域が固着化している現在、新しい価値を創造するには2つ以上の領域に精通し、領域を横断しなければならない。
人生100年時代では、「人的資本」、つまり「人と人とのつながり」が中心になる。そこで最も必要になるのは「信頼」である。個人の能力や人としてのあり方によってつながるネットワークが財産となる。そのネットワークを広げるためには、自己紹介のアップデートが欠かせない。
自己紹介で重要なのは「覚えてもらうこと」ではない。最大の目的は「良好な信頼関係を築くこと」である。すなわち、初めて会う相手から「信頼」を得ることなのだ。「信頼」は、相手の今後に期待できるという、未来へ向かうベクトルである。
自己紹介で信頼を築くために重要なのは、「期待のマネジメント」である。「期待」とは、良い結果や状態を、前向きに待つ感情のことだ。初めて何かを試すときには必ず「期待」がある。よって、新しく会った人と関係を築くには、「期待」というポジティブな感情の創出が必要なのだ。
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