芝園団地に住んでいます

住民の半分が外国人になったとき何が起こるか
未読
芝園団地に住んでいます
芝園団地に住んでいます
住民の半分が外国人になったとき何が起こるか
著者
未読
芝園団地に住んでいます
著者
出版社
出版日
2019年10月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

埼玉県川口市にある芝園団地。要約者はここからそう遠くない場所で生まれ育った。だから本書を目にしたとき、「あの場所だ!」という驚きと少々の嬉しさから、つい手に取ってしまった。

芝園団地は現在、外国人住民が過半数を占める。その特徴からテレビでも取り上げられ、そこで行われている交流活動も注目を集めている。中国人住民が多い場所であることは、要約者も幼い頃から知っていた。団地住まいの中国人の子どもたちにも知り合いがいたし、父に連れられて入った敷地内の雰囲気も覚えている。数年前に足を踏み入れてみたら、いつのまにか中国・韓国系食料品店ができていて、いつも都内で買っていたものが近場で手に入ると喜んだこともあった。とはいえ団地外の人間からすると、その内実はなかなかうかがい知れないものだ。

本書は、実際に芝園団地に引っ越した著者・大島隆氏が、その内情を主観と客観を織り交ぜながら綴った体験記である。芝園団地の現実は、想像以上に「濃い」。そこには日本人と外国人だけでなく、古参と新参、高齢者と若年層などの二項対立からなる世界がある。そして交わりにくい両者の架け橋となるべく奔走する、大島氏を含む人々がいる。

1本の道路を挟んだ向こう側に自分の知らない世界があるとは、まさにこのことだ。だが本書で指摘されているように、芝園団地で起きている出来事はけっして対岸の火事ではない。規模、割合の違いはあれど、今後の日本の縮図のようですらある。「多数派」の日本人にこそ、本書を読んでほしいと願う。

著者

大島隆(おおしま たかし)
1972年、新潟県生まれ。朝日新聞政治部記者、テレビ東京ニューヨーク支局記者、朝日新聞ワシントン特派員、国際報道部次長、GLOBE副編集長を経て政治部次長。この間ハーバード大学ニーマン・フェロー、同大ケネディ行政大学院修了。大学時代に中国人民大学に1年間留学。著書に『アメリカは尖閣を守るか』(朝日新聞出版)。

本書の要点

  • 要点
    1
    埼玉県川口市にある芝園団地は、住民の過半数が外国人だ。その多くは中国人であり、団地内は小さなチャイナタウンの様相を呈している。
  • 要点
    2
    同じ団地内に住みながらも、意識的に交流を持たなければ、日本人住民と外国人住民が交わる機会は少ない。両者間には「見えない壁」が存在しているようだ。
  • 要点
    3
    移民受け入れには、多数派に痛みが伴う。その痛みを乗り越えるには、双方向からの働き方が必須である。

要約

1つの団地、2つの世界

新たなチャイナタウン
yorkfoto/gettyimages

埼玉県川口市にある芝園団地。この団地はもともと都心で働く人々の住宅不足を解消するため、当時の日本住宅公団(現在のUR=独立行政法人都市再生機構)によって1987年に建てられた、典型的な大規模団地のひとつだ。だがこの芝園団地に近づくにつれて、中国語の会話を多く耳にするようになる。そして団地に入ると、日本語・中国語併記の貼り紙がされており、団地内の小さな商店街に入っているお店も、ほとんどが中国語で書かれた看板を掲げていることに気づくだろう。

2017年1月、著者は芝園団地に引っ越した。著者はそれまで海外で数多くのチャイナタウンを目にしてきたが、それでも芝園団地に初めて足を踏み入れたときには驚いた。その一方で、インターネット上に書かれているネガティブな情報と比べると、「思ったほど『荒れて』いないな」と感じた。

団地がいかに変化しているかを知るには、団地内の「メインストリート」ともいえる商店街を見るといい。著者が入居したとき、すでにメインストリートには日本人経営よりも中国人経営の店の方が多かった。その後、1年足らずの間に日本人経営の数店舗が閉店し、代わりに中国人経営の店舗が入った。さらには団地の周辺にも、中国人向けの食料品店や美容室、不動産、カフェなどが新たにオープンしている。横浜の中華街のような観光地とは違う、リアルな「チャイナタウン」が、芝園団地を中心にして広がりつつあるのだ。

高齢化する日本人住民

引っ越ししてしばらくした後、著者は団地の自治会に入会した。その3カ月後、自治会総会に初めて参加することになった。20人ほどいる会員は皆、高齢の日本人だ。

会議中、自治会員の減少が話題に上った。団地に住んでいるのはおよそ2500世帯。以前は大半が自治会に入っていたが、このときの加入者は450世帯に過ぎなかった。加入者が減れば自治会費も減るため、財政事情も苦しくなる。また全住民の過半数が外国人でありながら、自治体に加入している外国人世帯は23世帯だけであり、ほとんどは自治会に入っていなかった。

芝園団地の特徴には「外国人が多いこと」と、もうひとつ「日本人住民の高齢化」がある。その理由は、芝園団地が建った1978年当時に、30~40代の都心で働いていた人々が入居し、現在まで住み続けている場合が多いからだ。団地は賃貸であるため、やがて持ち家を購入して引っ越す人も多く、1980年代から入居者数は減少に転じた。また親から子供へ部屋が相続されることはなく、独立した子供たちはやがて別の場所に居を構えるため、日本人の小さな子供を団地内で見かけることはめったにない。

若年層が多い外国人住民
paulaphoto/gettyimages

その一方で1990年代から、中国人を中心とする外国人住民が増え始めた。2015年11月、芝園団地のある芝園町では、ついに外国人住民の割合が日本人住民の割合を上回った。芝園町の住民数は約5千人で、その過半数(約2500人)を外国人が占める。こうしたコミュニティは、全国を見渡しても珍しい。

団地に住む日本人住民と外国人住民は、意識的に交流を持たない限り、それぞれ接する機会は乏しい。著者の場合、川口市やその隣接地域の日本語教室で、ボランティアとして外国人住民の日本語学習を手伝っていて交流があった。また日本語教室の参加者の約8割は中国人だったため、中国人の住民像を掴むこともできた。

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要約公開日 2020.02.22
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