2012年、京都大学数理解析研究所の望月新一教授が、4編の論文を公開した。この論文は、数学界において非常に重要でありながら、とても難しく、多くの数学者がまったく手も足も出ない「ABC予想」を解決したと主張していた。そのため、論文が発表されて1週間後には、世界中の数学者にこの論文のことが伝わるほどであった。
しかし、望月教授がこの論文で展開している「宇宙際タイヒミュラー(IUT、Inter-universal Teichmüller theory)理論」は、従来の数学とは根本的に異なる、非常に新しいものであった。数学者にとってさえ、その斬新さゆえに理解するのが難しかったのだ。ウィスコンシン-マジソン大学のエレンバーグ教授は「まるで未来からやってきた論文のようにも、宇宙の外からやってきた論文のようにも思われる」と語ったそうだ。
数学者すら慣れていない新しい概念と記号の連続に、多くの数学者は望月教授の論文を読んで理解するのを諦めてしまった。また、既存の数学とはまったく異なる考え方、言語で書かれているため、数学界における通常の理解、拡散手段である講演やセミナートークといった方法で、IUT理論について広く効率的に説明・議論することも適さなかった。わからない言葉の連続に、理解よりも先に拒絶反応を示されてしまうかもしれないからだ。そこで望月教授は、論文発表前から少人数による対話ベースのコミュニケーションを積み重ね、IUT理論の理解者を増やすという地道な方法で、長い時間をかけて国内外に輪を広げている。
数学の論文にとって大切なのは、「新しく」「正しく」「興味深い」ものであることだ。つまり、問題を解決する、あるいは新たな視点を加えること、論理の飛躍のない証明が存在していること、そして、数学者たちのコミュニティが面白いと感じることである。望月教授のIUT理論が多くの数学者にとって深刻に受け止められたのは、この論文が「ABC予想」という、数学者にとって非常に重要な問題を解決したと主張しているからだ。
このABC予想とは、「ABCトリプル」と呼ばれる3つ組の自然数についての問題である。
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