両利きの組織をつくる

大企業病を打破する「攻めと守りの経営」
未読
両利きの組織をつくる
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大企業病を打破する「攻めと守りの経営」
未読
両利きの組織をつくる
出版社
出版日
2020年03月05日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

チャールズ・A・オライリー氏の『両利きの経営』は、世界的に注目されている組織経営論だ。両利きの経営とは、「既存事業を深堀りする能力」と「新規事業を探索する能力」、そしてこれら相矛盾する能力を、同時に追求できる組織能力の獲得を目指すものとされる。

本書の大きな特徴は、日本企業が両利きの経営を実現するための組織開発アプローチを、事例・理論・実践の3つの要素を織り交ぜて解説している点にある。組織が機能しているとはどういうことなのか。組織が変わるとはどういうことなのか。そして組織進化の過程において、経営トップが果たす役割とは何なのか。

こうした問いかけに対し、日本を代表するグローバル企業のひとつ、AGC株式会社(以下、AGC)の組織改革の事例を通して、著者は丁寧に答えていく。本書を何度も読み返すうちに、どうすれば日本で両利きの経営を実現できるのか、具体的にイメージできるようになるだろう。

成熟産業で働きながら、「うちの組織はこのままでいいのか?」と問題意識を持たれている方、とりわけ経営幹部の方に、ぜひお読みいただきたい快著である。

著者

加藤雅則 (Masanori Kato)
アクション・デザイン代表 エグゼクティブ・コーチ、組織開発コンサルタント
日本興業銀行、環境教育NPO、事業投資育成会社などを経て、現職。2000年、日本にコーアクティブ・コーチングを紹介し普及させた一人。以来、大手上場企業を中心 とした人材開発・組織開発に従事する。経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを 起点とした対話型組織開発を得意とする。日本におけるオライリー教授の共同研究者。 慶應義塾大学経済学部卒業 カリフォルニア大学バークレー校経営学修士(MBA)。 主な著書に、『組織は変われるか』(英治出版、2017)、『自分を立てなおす対話』(日本経済新聞出版社、2011)、共著書に『「自分ごと」だと人は育つ』(日本経済新聞出版社、2014、日本HRアワード最優秀賞受賞)、『ナラティヴ・アプローチ』(勁草書房、2009)など。

チャールズ・A・オライリー (Charles O' Reilly III)
スタンフォード大学経営大学院教授(The Frank E. Buck Professor of Management)
米国を代表する組織経営学者であり、「両利きの経営」の提唱者。カリフォルニア大学バークレー校 で経営学修士(MBA)、組織行動論の博士号を取得。同校教授、ハーバード・ビジネス スクールやコロンビア・ビジネス スクールの客員教授を経て現職。専門はリーダーシップ、組織と企業カルチャー、人材・人事マネジメント、イノベーションなど。学術論文では数多くの受賞を重ねており、全米アカデミー・オブ・マネジメントからは生涯功労賞が授与されている。主な著書に、『競争優位のイノベーション』(ダイヤモンド社)、『両利きの経営』(東洋経済新報社)のほか、100本以上の論文を執筆。両利きの経営のためのコンサルティング会社 ChangeLogic社(在ボストン)の共同創業者兼会長。

ウリケ・シェーデ (Ulrike Schaede)
カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策・戦略大学院教授
日本を対象とした企業戦略、組織論、金融市場、企業再編、起業論等を研究領域に、ハーバード・ビジネススクール、スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー 校ビジネススクール、一橋大学経済研究所、日本銀行 経済産業省、財務省、政策投資銀行等で研究員・客員教授を歴任。9年以上の日本在住経験を持つ。日本の経営、ビジネス、科学技術を社会政策と経営戦略面から研究し、サンディエゴと日本を繋ぐ研究所 Japan Forum for Innovation and Technology(JFIT)のディレクター。著書にChoose and Focus(2008)、The Business Reinvention of Japan(2020)のほか、50本以上の論文を執筆。

本書の要点

  • 要点
    1
    両利きの経営とは、「既存事業を深堀りする能力」と「新規事業を探索する能力」、そしてこれら相矛盾する能力を併存させる組織能力の獲得を目指すものだ。また、戦略論と組織論を両輪として機能させる面も併せ持っている。
  • 要点
    2
    組織が変わるとは、事業環境の変化に適応した新しいアラインメント(Alignment:結合)を形成し、既存のアラインメントを置き換えるということだ。
  • 要点
    3
    組織を正しく機能させるには、組織の基本4要素「KSF(成功の鍵)」「人材」「公式の組織」「組織カルチャー」のアラインメントを取ることが必要だ。
  • 要点
    4
    AGCは島村CEOを起点としてさまざまな施策を打ち出し、組織カルチャーの変革に取り組んだ。それはまさしく両利きの経営の実践であり、結果として組織改革を成功させることができた。

要約

いま必要な組織経営論

これまでの組織改革に欠けていたこと
tolgart/gettyimages

市場環境の急激な変化、デジタル技術を中心としたディスラプション、価値観の多様化など、日本はいまさまざまな変化に直面している。そのような環境にもかかわらず、これまで慣れ親しんだやり方を変えることができない、いわゆる大企業病に蝕まれている日本企業は多い。

その原因は大きく分けて2つある。1つは、経営者が組織や人材についてあまり関心を持っていないパターンだ。この要因として、終身雇用制度の下、総じて従業員の離職率が低く、組織改善の必要性を感じにくかったことが挙げられる。彼らにはどうしても「社員がいきいきと働ける」「風通しのよい企業文化」といった話題が、甘っちょろく幼稚な話に感じてしまうのだ。

もう1つは、戦略性を欠いたまま、組織論だけが語られるパターンだ。理想の組織モデルや働き方の多様化など、さまざまな組織論を語りつつも、それらが事業戦略や経営視点に結びついていない。これはとりわけミドル層に多く見られる傾向である。

つまり経営陣が戦略論に偏って経営を考える一方で、組織や人に関心を持つミドル層が戦略的な視点を持っていないというチグハグな状況が多く見られるのだ。これでは「組織が変わる」ことへの共通イメージなど持てるわけがない。

組織カルチャー変革のためのアプローチ

組織を語る際に大切なのは、組織と戦略の両方に目を向けた、組織経営論という視点だ。戦略と組織は車の両輪に当たり、両者がかみ合うことではじめて機能する。つまり戦略論と組織論をバラバラに議論していても意味がない。

両利きの経営とは、既存事業を維持しながら新規事業を生み出すという戦略論であるだけでなく、「それを可能にするために組織はどうあるべきか」という組織論としての面も併せ持つ組織経営論である。その核心は、組織能力の形成を可能とする「組織カルチャー」のマネジメントにある。本書における組織カルチャーとは、いわゆる社風や組織のDNA、組織風土といった抽象的な概念ではなく、組織で期待される「仕事のやり方」のことだ。この組織カルチャーこそが、最も真似されにくい競争力の源泉となる。

しかし組織カルチャーを変えるのは、途方もなく難しいことだ。多くの日本企業経営者は、組織カルチャーを変えるにはボトムアップでなければならないと口を揃える。一方で外資系を経験した経営者は、トップダウンでなければ変えられないと考えることが多いようだ。だが本書で提案されるアプローチは、そのどちらでもない。

「変革は経営者によるトップダウンとミドル・若手からのボトムアップがミートするところで起こる」というのが著者たちの主張だ。オライリー氏の前著『両利きの経営』では、リーダーシップに最も重きが置かれていたのに対し、本書では「トップダウンとボトムアップの両方が必要である」という視点が重視されている。

両利きの経営

コングルエンス・モデル
metamorworks/gettyimages

両利きの経営とは、「既存事業を深堀りする能力」と「新規事業を探索する能力」、そしてこれら相矛盾する能力を併存させる組織能力の獲得を目指すものだ。しかしそもそも組織能力とはいったい何だろうか。著者たちはこの組織能力を読み解く視点として、「コングルエンス・モデル」を紹介している。

コングルエンス・モデルは、ダイナミックな活動体である組織を「KSF」「人材」「公式の組織」「組織カルチャー」という4つの基本要素から捉える。順を追って説明しよう。

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要約公開日 2020.07.03
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