正しいブランディングは、中小企業にも必要不可欠な経営戦略である。そのことをお伝えするために、まずは本書における「ブランド」と「ブランディング」の意味を定義しておこう。
ブランドは「柱」である。壁を四面に立てて床と天井で上下を塞げば家のような構造体はできるが、柱がなければちょっとした揺れで崩れてしまう。特別なものである必要はないが、なければ困る。ブランドとは、プロダクトとともに企業という構造体を支える、経営者や企業の強い思い、柱のことなのだ。
企業の中にある、「柱にしたいもの」「柱になるべきもの」を、誰もが納得するようなブランドとして確立させるための施策が、ブランディングである。それは、単に広告宣伝を行うことではない。企業や組織の宝物をまず柱、ブランドに育て上げること、つまり「ブランディング・ファースト」こそが重要なのだ。
ブランドやブランディングは大企業のためのものだ、というイメージを持っている方も多い。しかし、「規模の経済」から「品質の経済」へと移りゆく現代の社会を生き延びるための経営戦略として、中小企業にこそブランディングが効果的なのだ。このパラダイムシフトへの対応に大切なブランディングの要素は、「差別化」「スピード」「インナー」の3つである。
1つめの要素である差別化には、競合他社との差を埋めて底上げすることで「追いつく」POP(Points of Parity)と、競合他社にないものを伸ばして新たな要素を付加することで「追い越す」POD(Points of Difference)という2つの方向性がある。大企業と同じ土俵で戦うことが困難な中小企業は、PODの差別化を実現できる何かを探し、それで一点突破するためのブランディングを目指すべきだ。
品質の時代では「マーケティング」より「トライアル」がものをいうようになったため、2つめの要素である「スピード」の重要性が増してきた。ヒットを確信できるようなプロダクトがあったとしても、競合他社が似たプロダクトを先に発表するかもしれないし、大手が真似をして潜在顧客を奪いにかかる可能性もある。競合の機先を制するべく、まずリリースしてみる。そして、リリース後の結果や評価を最上の情報として、プロダクトをアップデートする。ブランディングによって明確な柱が構築できていれば意思決定のスピードが上がり、フットワークの面で大手を制することも可能である。
3つめの要素である「インナー」とは、社内やそこで働く従業員のことを指す。
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