デザインには、「見た目」や「スタイリング」といった「意匠」の定義だけでなく、「設計・計画」という定義もある。一流のデザイナーたちは、既存のものを組み替えて、新しい組み合わせを作ることによって、アウトプットを生み出す。この組み換えや再結合の技法を抽出し、ビジネスにも応用しようとするデザインは、ビジネスの限界を超えるうえでも有効な手段だ。
米国の教育機関では、2000年代からビジネスパーソン向けのデザインのカリキュラムが展開されてきた。ビジネスエリートを対象としたデザインスクールでは、アウトプットを生むための一定の法則や方法論を教える。この方法論を身につければ、センスがなくとも、人間の感性に訴えかける強烈なアウトプットを生み出すことが可能となる。
デザインは、美術大学出身の人だけのスキルではない。ビジネスパーソンがデザインの知見を取り入れることで、ビジネスとデザインの最適なミックスを作り出せる。
ビジネスの前提となっているのは、合理性や客観性を大事にするという視点だ。そのために、数字やデータなど定量的な材料を用いて現実や事実を把握しようとする。
これに対して、デザインは主観的な見方や考え方を必要とする。デザインの考え方では、コンテクスト、すなわち文脈や背景による現実の理解をめざす。
新しいアイデアを考える際には、数字やデータを鵜呑みにせず、その背景にある文脈を読み取ることが重要だ。ビジネスの課題を解決するための方法を「設計し、計画する」ために必要なスキルが、デザインスクールで学ぶ思考法だ。
現在、市場におけるゲームのルールが目まぐるしく変化している。ある産業の主力プレイヤーが、わずか数年で入れ替わることも珍しくない。このような時代にビジネスを作り出すためには、合理性や客観性を重視する「ビジネス的な思考」だけでは対応しきれない。効率や生産性を高めたいときには、「ビジネス的な思考」が役立つが、新しいものを生み出す際には「感性による思考」が必要となる。
デザインスクールでは、思いついたら即座に形にし、うまくいかなければ別のアプローチで作ってみる、というトライアンドエラーをくり返し、完成品に近づけていく。主流なのは、精緻な分析に基づく「計画→実行」プロセスではなく、「実験→修正」という実行主導型のプロセスなのだ。これにより、より柔軟でスピード感のあるアプローチが可能となる。
近年、日本でも「デザイン思考」への注目が高まっている。ただし、日経クロストレンドの記事によると、デザイン思考を導入していると答えた企業は14.9%で、そのうち定着に成功している企業はわずか5.5%にすぎないという。つまり、デザイン思考だけではビジネスの現場でうまく機能しないケースが少なからずあるといえる。
その理由の1つは、デザイン思考にビジネス的な視点が足りないためだ。
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