現代は組織の時代といわれる。そもそも組織とは何か。経営学者のチェスター・バーナードによると、組織は「2人以上の人々によって担われた、意識的に調整された活動や諸力のシステム」と定義される。
その組織に対して、本書は「意思決定」という側面からアプローチする。組織論では、組織におけるあらゆる活動を意思決定と捉える。意思決定は、問題を認識し、問題解決のために適当な選択肢をつくり出し、それらの選択肢を評価して選び出す、というプロセスから成る。
ここで考慮しなければならないのは、人間の合理性には限界があるという「制約された合理性」だ。私たちは、あらゆる選択肢を網羅的に知ることも、選択肢の帰結を正確に予測することもできない。これを前提に調整の仕組みをつくり上げることで、より合理性の高い意思決定を追求するのが、組織という制度である。
組織が成立する条件として、組織目的、貢献意欲、コミュニケーションの3つがあげられる。まずは「組織目的」に関してだ。組織全体に共通する目的が存在するという信念が、その組織の関係者に共有されることは、組織の成立にとって不可欠だ。それは、個人では達成することのできない、その組織固有のものである。経営理念などという形で定式化・公表されている場合もある。
組織では、上位の目的を達成する手段が、下位の目的となる「目的のブレイクダウン」が起きている。このような「目的-手段の連鎖」を通じて、部門-部-課-個人という具合に目的がどんどんブレイクダウン(落とし込み)され、整合性のある具体的な活動につながっていく。
組織の目的と個人が組織に参加する目的の関係について、考えてみたい。まず経営組織論では、それらは基本的に別物だという視点からスタートする。
組織と個人の関係は、ギブ・アンド・テイクの交換関係ととらえられ、誘因と貢献のペアになっている。「誘因」とは、経済的報酬など組織から個人に提供されるものである。一方、「貢献」とは、組織の目的追求のために個人から提供される労働力のことだ。誘因は、経済的報酬とは限らない。スキルの向上を通じたキャリア開発の機会なども、個人にとって大きな誘因になりうる。
では組織におけるコミュニケーションの本質とはどのようなものだろうか。組織では、専門化などの要因により、さまざまな「分業」が行われている。そのようにいったん「分化」した組織を、組織目的に向けてもういちど「統合」しなければならない。そこで重要なのが、コミュニケーションによる「調整」である。いわば、整合性をとる、またはベクトルを合わせることをめざした活動だ。
そのメカニズムは、意思決定のプロセスにおいて、大事な前提となる「決定前提」を参加者間で共有することである。それは、客観的な情報に留まらず、課題の優先順位や目的など、価値判断を伴う「価値前提」も含まれる。
コミュニケーションとは単なる情報伝達ではない。それによって他者の行動や意思決定の前提に変化を加えることが、組織におけるコミュニケーションの本質といえよう。
コミュニケーションを適切にマネジメントするための1つのアプローチは、あらかじめ円滑にコミュニケーションが進むように、制度を「構造化」しておくことだ。
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