フューチャー・ネーション

国家をアップデートせよ
未読
フューチャー・ネーション
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国家をアップデートせよ
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フューチャー・ネーション
出版社
NewsPicksパブリッシング

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出版日
2020年06月22日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書のタイトルを見て、「はて、SF小説か何かの類だろうか?」と思われたかもしれない。著者が思い描くフューチャー・ネーションとは、全人類を対象とする地球規模の「グローバル国家」を指している。グローバル国家と言っても、国境をなくそうという話ではないのだが、その壮大なビジョンに空想小説を重ねてしまっても致し方ないだろう。それでもなお、これはフィクションなどではない。著者が語る人類の未来への新たな展望は、きわめて合理的で納得性が高い。その実現に期待を抱かずにはいられないほどだ。

いま、新型コロナウイルス感染症が世界を未曾有の大混乱に陥れている。私たちは国家を越えて団結し、共通の敵に立ち向かわなければならない。世界はすでにそうした共通認識を抱いており、そのためのグローバル国家である。ビル&メリンダ・ゲイツ財団副ディレクターを務める著者が本書を執筆したのは、こうした事態に陥る前だというから、その慧眼には頭が下がる。気候変動や核兵器の脅威、持続可能な開発目標(SDGs)も同じく、全世界が力を合わせて対処すべき地球規模の課題だ。各国政府が個別に対処しきれるものではない。

近年のグローバル化には不安や脅威を感じる側面もあるだろうが、グローバリズムとはナショナリズムを駆逐するものではない。むしろ、本来のナショナリズムが成し遂げた連帯感の醸成を、地球規模に広げていこうという取り組みなのだ。人類がより一層の安寧と幸福を手に入れるためのフューチャー・ネーション。重ねて言うが、これは決して空想ではない。

ライター画像
金井美穂

著者

ハッサン・ダムルジ(Hassan Damluji)
ビル&メリンダ・ゲイツ財団副ディレクター。同財団のグローバルポリシー&アドボカシー部門(中東・パキスタン・日本・韓国)を率いる。専門はコーポレートマネジメント、国際開発、教育改革。ロンドンでイラク人の父親とアイルランド人の母親の元に生まれる。オックスフォード大学卒業後、ハーバード大学で修士号(中東研究)を取得。マッキンゼー&カンパニーをへて、2013年、ゲイツ財団に参画。25億ドルの開発ファンドLives & Livelihoods Fundの共同創設者や、ロンドン拠点のチャリティ・スクールOne Degree Academyの共同創設者なども務める。来日経験も多く、日本の近現代史に造詣が深い。本書が初の著書となる。

本書の要点

  • 要点
    1
    気候変動や世界的パンデミック、核兵器の脅威を人類共通の「敵」として、私たちはこれを克服するための「グローバル国家」を目指す必要がある。
  • 要点
    2
    教育の普及、言語の集約化、マスメディア、知識階層の移動がナショナリズム浸透の土台となったのと同じく、現代でもそれらはグローバリズムが拡大するための下地となる。
  • 要点
    3
    グローバリズムの同胞は「地球上に住む全人類」であり、例外はない。持続可能な開発目標(SDGs)をミッションとするなど、真のグローバル国家を実現するために追求すべき6つの原則がある。

要約

【必読ポイント!】 世界が目指すべき「グローバル国家」

人類の敵と一体感ある世界
metamorworks/gettyimages

本書は、世界を地球規模のコミュニティ、すなわち「グローバル国家」にアップデートするための将来ビジョンを提示するものである。

新型コロナウイルスが「人類共通の敵」と言い表されることからわかるように、私たち人類の敵はもはや「他の人々」ではなくなっている。それは世界的パンデミックや気候変動、核兵器の脅威、貧困などであり、全人類が互いに団結して克服すべき人類共通の問題と言える。

そうした全人類共通の脅威に立ち向かうには、多種多様でいまだ争いの絶えない何百万というコミュニティをまとめ上げ、一体感のある世界を目指さなければならない。それは決して途方もないビジョンなどではない。その証拠に、私たちは「国家」という強力な神話によって、平和的かつ機能的な集合体を創り出した実績を持っている。今後はその対象を全人類に広げる必要があるというだけだ。

国境を越えて移動する人が増加し、ソーシャルメディアで世界の人々がつながっていく。グローバル国家の創造に必要な下地はすでに整っている。これからいかにして、「私たちはみなグローバル国家、フューチャー・ネーション(未来の国家)の一員である」という神話を生み出していけばいいかを見ていこう。

ナショナリズムに学ぶ

歴史的功績と課題

歴史をひもとくと、宗教や政治信条のことなる人々をひとつに団結させることに成功したのは、「国家」というアイデンティティをおいてほかにないことがわかる。共通の国家という神話がもたらす国民同士の基本的な信頼感がなければ、民主主義や社会保障制度、安全な社会の実現はかなわなかっただろう。

国家というアイデンティティは「内側」にいる人々の結束を素晴らしく強固にしたが、同時に「外側」にいる人々を排除するという悪しき作用をもたらしてきたのも事実だ。国家は自国民に対する基本的医療を充実させていても、エボラ出血熱や気候変動などの国際的課題については何もしていないに等しい。

互いの違いを認め、誰もが多様性を受け入れるコスモポリタン(世界主義的)な未来を標榜する人々もいるが、人間は本能的に部族意識を捨てきれないのだから、むしろそれを活かすことを考えなくてはならない。そのためには、互いを尊重し合うだけでなく、重要な何かを共有することで人々を団結させる、本来の意味でのナショナリズムに由来する意識が欠かせない。

グローバリズムとの交差
Prostock-Studio/gettyimages

18世紀の西ヨーロッパではじまった産業革命によって近代化への道が開けた。それと同時にナショナリズムが勃興した背景には、4つの特徴的な社会的変化があった。

第一に、農業以外の道へ経済が多様化するとともに基礎教育の重要性が高まり、大衆教育が普及したこと。これにより識字率が向上した。第二に、単一の共通語、公用語が誕生し、言語による統一的アイデンティティが広まったこと。第三に、マスメディアが登場したこと。新聞は、当時の最先端ソーシャルメディアとなった。最後は、ホワイトカラー層の移動が増えたこと。ナショナリズムの思想は、各地を移動する知識階層を通じて大衆へと広まっていった。

かつて国家の領土内で起きたこうした変化は、いまグローバルな規模で進んでいる。世界人口の4分の1が英語を理解し、国際便搭乗者数は10人に1人の計算だ。俯瞰的に見れば、いまのグローバリズムはナショナリズムが生まれた時と同じ状況にある。グローバリズムがもたらす世界についての魅力的なビジョンを語り、分断化された世界から真のグローバル国家への歩みを進めるために、追求すべき6つの原則がある。

グローバル市民としての自己認知

インクルーシブであれ【第一の原則】

まず、グローバリズムの「同胞」とはいったい誰を指すのかを確認しておこう。答えは

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要約公開日 2020.07.27
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