人類の歴史上でも決定的に重要といえる出来事が、いまから30年ほど先に起きるだろう。世界の人口が、ついに減り始めるのだ。人口はひとたび減少に転じると、二度と増加することなく減り続ける。私たちの目前にあるのは人口爆発ではない。人口減少である。
国連の主要な予測によると、人口は今世紀いっぱいまで増え続け、70億人から110億人になり、人口が横ばいになるのは2100年以降だとされている。だがこの予測に対して、「人口を多く見積もりすぎだ」と考える人口統計学者が、世界各地で増えつつある。そうした学者に言わせれば、世界人口は2040年から2060年の間に90億人となり、その後は減少に転じる可能性が高い。今世紀末には、世界人口が現在と同水準にまで戻り、その後は二度と増えることなく減少を続けるという。
豊かな先進国で人口が減っているのは、いまさら騒ぎ立てることではない。だが驚くべき点は、巨大な人口を抱える発展途上国でも出生率が下がっており、中国やインドでさえ近い将来に人口が減り始めるということだ。
人類は誕生直後から18世紀までずっと、幼児の死亡率が高く平均寿命も短い世界に生きていた。「人口置換モデル」において、これは人口増加のペースが遅く、増加と減少が繰り返される「第一ステージ」に位置づけられる。
その後ヨーロッパでは、食糧事情の改善による免疫力の向上や衛生状態の改善などによって、出生率は高いまま死亡率が次第に下がっていく「第二ステージ」に突入した。
だが19世紀から20世紀になると、先進国では死亡率がゆっくり低下しつつ、出生率も低下する「第三ステージ」に入る。その最も大きな要因は都市化だ。農場では子供も働き手となり得るが、都市生活では子育ての費用がかさみ、住宅費も余計にかかるので、子供は「負債」扱いされる。都市に住む人々は、自分たちの経済的利益にもとづき、子供を減らすのだ。
それと同時に、教育によって女性の知識が増え、男性と平等な権利を勝ち取るようになると、女性はあまり多くの子供を産まなくなる。この傾向はやがて、出生率が人口維持に必要な水準か、その近くまで下がった「第四ステージ」の社会をもたらす。そして出生率が人口置換率を下回りつつ、平均寿命が延び続けると、少子高齢化の「第五ステージ」へと至る。
世界人口の増加スピードはすでに安定期を迎え、ゆっくりとペースダウンしている。今後数十年かけて増加スピードはさらに落ち、人口減少に転ずるだろう。実際に発展途上国の多くが、すでに第三ステージへと突入しているどころか、第四ステージ、第五ステージへと突入しているのである。
経済学者のマルサスは『人口論』のなかで、世界人口がつねに幾何級数的に増加するのに対し、食糧生産は算術級数的にしか改善されないため、いずれ大きな困難が生じると主張した。マルサスだけでなく、いまも人口爆発による終末が訪れると考える論者は多い。しかし彼らの予想に反して、現在では農業の生産性が飛躍的に向上したこともあり、飢饉や貧困は減りつつある。
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