人類はアフリカの共通の祖先から分岐しながら、多様な進化を遂げてきた。同様に、ピロリ菌やエイズ、麻疹、水痘(水ぼうそう)、結核などの原因となる病原性微生物の起源もアフリカだとされている。これらは宿主の人とともに進化し、世界に拡散していったものの子孫だ。
ウイルスは病気をもたらす厄介者と考えられがちだ。しかしRNAウイルスの一種であるレトロウイルスは、自分の遺伝子を別の生物の遺伝子に組み込むことで、生物進化の原動力になってきたとも考えられる。というのも、生物は感染したウイルスの遺伝子を自らの遺伝子に取り組み、それが突然変異を経て遺伝情報を多様にし、進化を促進してきたという側面があるのだ。実際に人を含むどんな生物にも、ウイルス由来の遺伝子が組み込まれている。
哺乳類の体内は温度が一定で栄養分も豊富だ。微生物にとっては、なんとしてでも住みつきたい環境だといえる。一方で宿主からすると、微生物は迷惑な存在だ。感染すれば細胞が損傷したり、栄養分を奪われたり、遺伝子を乗っ取られて細胞ががん化したりしてしまう。
微生物と宿主との関係は、次の4つに分けられる。
1つめは、宿主が微生物の攻撃で敗北し死滅するパターンだ。この場合、微生物が他の宿主に移らないかぎりは、微生物も宿主と運命を共にすることになる。致死率の高いエボラ出血熱が、局地的な流行でおさまっているのもこのためである。
第2のパターンは、宿主側の攻撃で微生物が死滅することだ。ワクチンによって天然痘は根絶され、ハンセン病やポリオや黄熱病もそれと同じ道を辿ることが期待されている。
3つめは、宿主と微生物が和平関係を結ぶ場合だ。これらの微生物は、普段おとなしくしているため「日和見菌」と呼ばれる。しかし宿主の免疫が低下すると猛威を振るい出す。
第4は、宿主と微生物の両者が防御を固め、果てしない戦いを繰り広げるケースだ。たとえば水痘ウイルスは、一度感染すると宿主の神経細胞にずっと潜むことで知られている。
宿主と微生物のせめぎ合いは、まるで軍拡競争のようだ。
人類はワクチンや抗生物質などを開発し、病気を抑え込もうと努力してきた。そうした努力が実り、乳幼児の死亡率は急減。世界人口は急増し、平均寿命も長くなった。しかしそれでも人は日常的に風邪や下痢に悩まされているし、新型インフルエンザや風疹などの突発的な流行に依然として脅かされている。
病原体から身を守るため、宿主となる生物は防御手段を進化させる。だが病原体もまた、その防御手段を破って感染する方法を進化させる。人類と微生物の歴史は、その繰り返しなのだ。
病原体と戦うなかで、人類も進化してきた。たとえばマラリアは古くから人類を苦しめているが、人類もただ単にやられるだけでは終わらない。
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