『養生訓』は、江戸時代の儒学者、貝原(かいばら)益軒(えきけん)によって書かれた、健康に関する指南書である。書かれたのは1713年、益軒が83歳のときだ。益軒はこの翌年に亡くなっている。
『養生訓』には、益軒が自ら実践し、経験してきたことを踏まえ、実際に効果があった健康法がまとめられている。益軒が当時としてはかなりの長寿であったことからも、『養生訓』がすぐれた健康法であることがわかるだろう。
養生というと身体的なことがらをイメージするかもしれないが、『養生訓』では、からだ以上に心が重視されている。心の安らぎが養生の基本であるとし、心を平和にし、心を苦しめず、心を養うことに重点が置かれている。現代のストレス社会に生きるわれわれにとっても、心の健康は重要な問題であり、『養生訓』に学ぶことは多い。
ここからは、『養生訓』で語られる内容を取り上げていく。
人のからだは天地や父母からたまわったものである。天地・父母に仕える立場である以上、養生してできるだけ長生きすることが、生きる者の務めだ。
自分のからだは自分ひとりのものではない。だから節制せずに病気になって早死にすることは最大の不孝である。人としてこの世に生まれてきたからには、ひたすら父母・天地に孝をつくし、人倫(じんりん)の道を実践し、義理にしたがわねばならない。そして、幸福になり、長生きして喜び楽しむのだ。
生命と私欲のどちらが大事かをよく考えて、日々の生活を慎むようにしよう。短命ではどれだけ財産があっても意味がない。長生きすることこそが、最大の幸せである。
多くの人間は生まれつき長寿だが、養生せずに生きていると短命に終わる。逆に、生まれつき多病な人でも、養生すればかえって長生きできることもある。
不摂生は自殺と同じだ。早いか遅いかの違いはあるものの、自分で自分を害するという点で共通している。
養生の第一歩は心気を養うことだ。心を穏やかに保ち、怒りと欲を抑え、心を苦しめないことが大切だ。
寝てばかりいるのはよくない。長く眠っていると気が滞って循環しなくなってしまうからだ。とくに食後、十分に消化していないうちに寝てしまうと、食の気をふさいで大いに元気をそこなう。
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