ピープルアナリティクスとは、「人材マネジメントにまつわる様々なデータを活用して、人材マネジメントの意思決定の精度向上や業務の効率化、従業員への提供価値向上を実現する手法」を意味する。
最もわかりやすい例の1つは、採用選考の自動判断である。これは、選考時に採取される性格や能力特性のデータをもとにして、入社後高いパフォーマンスを発揮する人材(ハイパフォーマー)になるか否かを統計的に予測するものだ。「AIを活用した採用判断システム」などと呼ばれている。
採用選考といえば、従来は応募書類と性格や能力特性に関するテストなどで足切りを行い、その後面接によって最終的な合否を決めるのが一般的だった。こうした選考では、企業が面接官に提示するガイドラインにより、ある程度の判断基準は示されている。しかし、最終的には、面接官自身の「経験と勘」に依拠する部分が少なくない。ピープルアナリティクスは、こうした採用の合否といった意思決定に、データ分析による示唆を提供し、その精度を向上させることを目的としている。
実際にピープルアナリティクスを推進しようとすると、人事部内からは「人材データが十分整備されておらず、分析するのは時期尚早ではないか」といった声が出てくることが多い。この「データ整備優先」の考え方により、最初の一歩を踏み出せていない企業も多いのではないだろうか。
そこで本書がすすめるのは、たとえ不十分であっても既存データを使い、分析を先行させるやり方である。これによりクイックウィンを生むことで、人材データ分析に「意味がありそうだ」という感覚を周囲にもってもらうのだ。
もちろん、分析結果としては物足りない面もあるだろう。しかし、一度分析をすることで、そもそも自社に必要な分析とはどのようなものかがわかり、本当にほしいデータも絞られてくる。そのうえで新しいデータの採取に取り掛かればよい。
ピープルアナリティクスの目的は、これまでの「経験と勘」に基づく人材マネジメントから、エビデンス・ベースドのマネジメントに転換することだと考えられがちだ。このことから、経験や勘と、人材データ分析・活用は対立する概念であり、人事部内で過去に培われてきたものが否定されてしまうという懸念を抱く人も多い。
しかし実際には、経験や勘が全面否定されるわけではない。むしろ両者が融合してこそエビデンス・ベースドの人材マネジメントに転換することが可能となる。
データ分析のカギは、いかに筋のよい仮説を立てるかである。「仮説立案」は、経験と勘に基づいた人の洞察力に頼るしかない。
また、データ分析の結果をどのように「解釈」するか、そしてそれによってどのような「施策」を立案するかというプロセスにも、経験に基づいた人事の知識が決定的に重要である。特に、結果が想定に反した意外なものであったときには、その理由がきちんと説明されなければ、新しいデータも葬り去られてしまうおそれがある。それを説明できるのは、データではなく人なのだ。
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