サーベイは、「組織や職場のコンディションの見える化」をめざす組織調査である。HRテックの発達や従業員のエンゲージメントへの注目から、サーベイの実施が近年流行している。ところが、多種多様なデータを大量に取得しても、データが活かされないケースや、現場に混乱をもたらしているケースも少なくない。この原因として、担当者や経営者がサーベイの性質やめざすものを理解していないことや、現場がサーベイ活用のためのプロセスを理解していないことなどが挙げられる。
著者によれば、サーベイ・フィードバックとは、サーベイ(組織調査)で得られたデータを、適切に現場に届け、現場の変化・職場の改善を導く技術である。サーベイ・フィードバックの手順のうち、「見える化」ばかりがスポットライトを当てられる。だが、それだけでは全く効果が上がらない。データが現場を変えるのではなく、データに現場の人間が向き合い対話してこそ、現場が変わるのだ。
サーベイ・フィードバックへの期待が高まっている背景には、2つの要因がある。1つは、「職場の多様性への対処」である。日本のかつての職場は、「日本型雇用」や「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる仕組みで運営されてきた。終身雇用、年功序列、新卒一括採用などに代表されるこの仕組みには、長期間にわたり安心・安全に働けるというメリットがある。一方で、変化のスピードに弱いというデメリットがある。こうした雇用形態の限界を感じた企業が「ジョブ型雇用」を採用していくと、終身雇用が崩れ、転職が当たり前になっていく。また人手不足の中で、「日本人・正社員・男性」だけでなく、女性や外国人、非正規雇用なども増えている。働く側の多様化により、職場のメンバーの価値観が一様ではなくなり、まとまるのが難しいという問題が生じている。こうした組織においては、組織のコンディションを把握して適切にメンバーに関わるための「見える化」が必要となる。
もう1つの要因は、「従業員のエンゲージメントを高めて、離職を防止し、生産性を高めたい」という経営ニーズの高まりである。日本のエンゲージメントの数値は、他国に比べて極端に低い。米ギャラップ社の調査によると、「熱意溢れる社員」の割合が、米国の32%に対して、日本は6%しかなかったという。そこで、離職防止の観点からも、エンゲージメント・サーベイを用いて定期的にエンゲージメントに関するデータを測定し、管理し、改善策を講じることが有効といえる。
現場の課題に対して解決を担うのは、管理職やマネージャーである。しかし、人事や経営企画は、その責任を現場の管理職に押しつけ、何の武器も与えないことが往々にしてある。職場で働く人々は、変化を拒絶する「職場の同調圧力」や「現状維持バイアス」に直面しがちだ。また、ある研究から、チームのパフォーマンスは最初は上がっていくものの、あるピークを境に時間がたてばたつほど下がっていくことがわかっている。組織は「油断禁物の生き物」なのだ。
だからこそ、生産性が落ちる可能性を予見し、組織の状況を見える化する必要がある。そして、「メンバーを腹落ちさせるための理由や根拠」という武器として、サーベイやデータといったツールが活用できる。
データを示せば人が動くというわけではない。データとは「再解釈が可能な情報の表現」である。人間が解釈を行い、それに基づいて行動することで、変化が起こる。多くの人は数字を自分に都合よく意味づけ、行動を変えないことを選択している。だからこそ、サーベイの示す客観的事実について、メンバー同士が対話し、意味づけを行うことが不可欠なのだ。
サーベイ・フィードバックは、3つのステップに分けられる。1つ目は、サーベイ実施による「見える化」。2つ目は、フィードバック・ミーティングの開催による「ガチ対話」。そして3つ目は、アクションプランをたてる「未来づくり」である。
サーベイによる「見える化」は、変革のはじまりにすぎない。ミシガン大学教授のデービッド・G・バウアーらによる研究では、様々な組織開発手法の効果を比較した結果、最も効果が高かったのは、フィードバック・ミーティングありのサーベイ・フィードバックであると実証された。重要なのは、職場のメンバーに「自分たちの職場の未来は自分たちで変えていく」という当事者意識を持ってもらうことである。
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