教育とは、子どもたちに対し、来たるべき未来を生きるために必要な能力を授ける行為である。ここで言う来たるべき未来とは、20世紀前半頃までは、ある程度は予測できるものだったかもしれない。しかし今、未来予測は不可能だ。子どもたちが将来どんな職業に就くのか、そこで必要とされるスキルはどんなものなのか、誰もわからない。
もっともわかりやすい例は英語教育だろう。40年近く前、著者が通っていた予備校の恩師は「あと数年もすれば自動翻訳が発達するから、英語を学んでも無駄だ」と説いた。この予言は見事に外れたが、誰も彼を笑うことはできない。
21世紀の半ば以降、中国語やロシア語がより重要になるかもしれない。自動翻訳の進歩により、それをツールとして上手に使いこなしつつ、微妙なニュアンスを表情や身振りで伝えるコミュニケーション能力が求められる可能性もある。このまま英語が世界を席巻し続けるかもしれない。未来は本当にわからない。
2021年1月、現行のセンター試験が廃止され、共通テストが開始される。
この大学入試改革は、高校と大学の授業カリキュラムにも変革を促す意欲的なものだ。そこで問われていたのは、新しい「学力」観である。
文部科学省は2007年、学校教育法を改正し「学力の三要素」という新しい提言を行った。この三要素とは(1)基礎的な知識・技能、(2)思考力・判断力・表現力等の能力、(3)主体的に学習に取り組む態度(主体性・多様性・協働性)の3つである。これらは並列ではなく、三角形の下から順に(1)→(2)→(3)と置かれている形だ。
今回の入試改革で求められているのは、共通テストのあとに各大学が課す2次試験で、「(2)思考力・判断力・表現力」または「(3)主体的に学習に取り組む態度」を測るような試験を行うことだ。では「主体性・多様性・協働性」を問う試験とは、どのような内容だろうか。
ここでは、著者が考え、実践してきた大学入試について紹介する。
著者が客員教授、学長特別補佐を務めている四国学院大学は、香川県善通寺市にある、全生徒数1200人の私立大学である。全国的にも珍しいメジャー(専攻)制度を導入しており、1年次の教養教育を経て、2年次からは学部を越えて、すべてのメジャーの中から好きなものを選ぶことができる。中四国地区で唯一の演劇コースを有し、2016年度からは新制度入試を前倒しで実施しているという、先進的な大学である。
演劇コースの新制度入試は、6〜7人のグループに分かれ、与えられた題材でディスカッションドラマ(討論劇)を作るというものだ。この試験で評価基準となるのは、メンバーと協働して何かを成し遂げられるかどうかだ。生徒の持っている知識や情報量ではなく、生徒の本質を見極めることが目的である。
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