平成を一言でいうと、画期的なイノベーションが起きない時代だった。米国ではGAFA、中国ではBATが台頭したが、日本には匹敵するIT企業は誕生しなかった。しかし、かつて日本には新たな分野を開拓する力を持つ、起業家精神あふれる創業者がいた。本書はその足跡をたどり、創業家一族を解剖、解説し、100年に1度と言われる産業構造の転換に向けて活かそうというものだ。対象の44家として、トヨタやソニーなど日本を代表する企業から産業界に名前を残す創業者、既に支配が終わった創業家などを丁寧にフォローしている。
ユニクロの柳井正は根っからの異端児だ。山口県宇部市で土建業を営む裕福な家庭の長男として育ち、早稲田大学を卒業後、ジャスコ(現イオン)に入社するも9カ月で退職。宇部に戻り、父親が経営する小郡商事に入社した。普段着のカジュアルウェアを安価で提供するため、広島市に「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」をオープンする。ユニクロはこの時の店名の略だ。
香港で品質の良いポロシャツを提供していたジョルダーノの創業者、ジミー・ライと1996年に出会い、委託生産と自店販売の小売業であるSPAの日本展開を決意した。その後「早い小売業」を意味するファーストリテイリングを社名とし、1999年2月に東証一部へスピード上場する。
国内のアパレルでは独り勝ち、世界でも第三位となったが、柳井がめざすのは世界一のアパレル企業だ。2017年、柳井は情報を商品化する情報製造小売業をめざすと宣言する。使いこなせていなかった顧客情報を活用し、消費者が欲しい商品を選んでから工場を動かすというものだ。
大成功を収めた柳井だが、後継者がいない。息子二人を社内取締役につけつつ、柳井は血の継承より会社の成長を最大の価値としている。社内の若手抜擢の情報もあるが、柳井に代わる異能が社内にはいない。「引退しない」という終身宣言さえしている。
ニトリHDは32期連続で最高益を更新している。飽和した家具・インテリア市場で、SPAのノウハウを使い成功した。
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