2019年6月18日、「リブラ入門」というホワイトペーパーが公表された。リブラ協会の発行だったが実態は、世界中に膨大なユーザーを持つGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の一角のフェイスブックによる、世界中で使えるグローバルなデジタル通貨「リブラ」発行の表明であった。国家が持つ通貨主権に基づいて中央銀行が独占的に発行してきた通貨に対し、金融機関ですらない一民間企業が挑戦してきた形だ。
国家の権限を奪われると考えた各国の金融当局や米議会は、過敏な反応を示した。2019年10月に開催されたG20では、デジタル通貨のリスクに対する強い懸念が記された合意文書がまとめられ、当面は発行を認めない方針が確認された。同月に米下院で開催された公聴会にはフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が呼ばれ、米当局の承認がなければリブラは発行しない、という言質を取られた。
各国の金融当局がリブラを敵対視する理由の1つに、「通貨」として非常によくできているリブラの仕組みがある。リブラは短期間に広く普及する可能性があり、既存の法定通貨や中央銀行の位置づけを低下させるのではないか。つまり、リブラが現行通貨制度のディスラプターとなる可能性を見出したのだ。
リブラとは何かを考えるためには、ビットコインと比較するのがわかりやすい。両者は、仮想通貨であること、ブロックチェーンを利用していること、など共通点が多い。
しかし、両者にはそれ以上に相違点もある。まず、中央管理者の有無。ビットコインは問題が発生しても解決すべき中央管理者はいなかったが、リブラはジュネーブに設立された「リブラ協会」が運営管理を行ない、問題発生時の解決責任も持つ。
次に、発行主体の有無。ビットコインは無から有を生み出す仕組みで発行主体がなく、誰の負債にもならない形で発行される。リブラはリブラ協会が発行主体となり、リブラ協会の負債として発行される。したがって、法定通貨への交換に対する義務も持つ。
そして、裏付け資産の有無。ビットコインは基準となる目安が存在せず、価格の乱高下が生じた。リブラは銀行預金と短期国債で運用される「リブラ・リザーブ」という100%の裏付け資産を持つため、これに対応する形で価格が安定すると目されている。
またリブラは、クローズド型のブロックチェーン技術を用いて信頼できる参加者のみのネットワークに限定するなど、技術面でもビットコインとの違いがある。これにより、信頼性が高く、高速な処理が可能となっている。
リブラのミッションは、貧困などにより金融サービスから取り残された人びとにアクセスを提供する「金融包摂」、ひいては「弱者救済」だが、それはフェイクだ。
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