2008年頃からフェアトレードや環境配慮を大規模に手掛けていた、グローバル企業の動きを理解するために重要な視点となるのが、4つの異なる経済認識だ。横軸に、ビジネスが環境・社会へ及ぼす影響を考慮すると利益が増えるか減るか、縦軸に、企業が環境・社会への影響を考慮することに賛成か反対かを置き、4つに分類したものである。それぞれについて説明しておこう。
「オールド資本主義」は、企業が環境・社会への影響を考慮すると利益が減るので、そうすべきではないと考える。これは4つの経済認識の出発点とも言える考え方だ。コンビニで、植林活動への寄付分として20円高い水より、値段の安いほうの水を選ぶようなものであり、我々の頭にはこの考え方がつねにある。
「脱資本主義」は、たとえ利益が減ったとしても環境・社会への影響を考慮した経済活動が必要だと主張する。オールド資本主義を批判するときに出てくる。
「ニュー資本主義」は前提が大きく異なり、環境・社会への影響を考慮すると利益が増えるので考慮すべき、とシンプルに考える。これは「ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)投資」に関わるものであり、本書の本題だ。
「陰謀論」は、「環境・社会への影響を考慮すると利益が増える」などというきれいごとの裏には、きっと何かの陰謀があると考える。
過去20年間でこれらの4つの立場は大きな変化を遂げてきた。なかでも、経済や金融の主流にいた勢力が、オールド資本主義からニュー資本主義へと転身させたことは大きい。この変化をもたらした考え方を「ESG思考」と名付ける。
企業のグローバル化が急速に進み、オールド資本主義と脱資本主義が対立するなか、当時の国連事務総長であったコフィー・アナンは、2000年に「ミレニアム開発目標(MDGs)」を打ち出す。国際社会が達成すべき目標として「環境の持続可能性の確保」など、8つのゴールと21のターゲットを掲げたものだ。
MDGs達成に向け、国連諸機関は加盟国に対し寄付や技術援助の拡大を要請、NGOに対する資金援助制度も拡充していった。これにより、難民・環境・医療などの分野で「国際NGO」と呼べるほどの団体が誕生した。
また、アナンは「国連グローバル・コンパクト」というもう1つの装置を生み出す。「人権」「労働」「環境」と、賄賂等の防止を意味する「腐敗防止」の4分野を対象に、合計10の原則を定めたものだ。国連加盟国ではなく民間企業を対象とした自主的な署名であり、法的な義務も罰則もない。単なる「宣言」に過ぎないと思われたが、国連が企業と接点を持ち、対話する場を設ける画期的な活動となった。アナンは国際社会の活動主体が企業に移ってきたことを察知していたのだ。
これら2つの装置は、2015年に国連で採択される「持続可能な開発目標(SGDs)」の大きな源となる。
このとき日本ではこうした国連の動きがほぼ知られることはなく、企業も報道機関も関心を寄せなかった。
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