ADHDは、多動・衝動性、不注意を特徴とする障害で、先天的な脳の発達のトラブルによって起きる発達障害の1つとされる。たいていは成長するにつれて改善がみられる。しかし、「大人のADHD」のケースも急増している。大人になっても症状が残る、あるいは子どもの頃には気づかれず、大人になって初めて診断される場合だ。
薬を処方されたが良くならず、セカンドオピニオンを求める人も増え始めている。患者自身が薬に期待しているとしても、臨床医がADHDと診断して抗ADHD薬を処方することに対し、疑問に思う部分は多い。
この違和感の正体を明らかにするために、ADHDをめぐる状況について徹底的に調べ直すことにした。ADHDをはじめとする発達障害は、ブームと言っても過言でないほど多くの人の関心を集めているが、なぜそんな事態が起きているのか。診断や診療は適切に行なわれているのか。それに対する答えは、ある意味不都合な真実となるかもしれない。
ADHDは、1990年代半ばまで、主に子どもの障害と考えられていた。早くからADHDの薬物療法が行なわれていたアメリカでは、成人になっても薬剤投与を止められないケースが膨大な数に上った。臨床現場からの切実な訴えを受けて、近年になり日本でも成人に対するADHDの診断と投薬が認められるようになっていった。一方で診断基準が緩められていった結果、60代の人にまで処方するなど首をかしげるようなケースが目立つようになっている。患者、治療者の双方にとっても、薬の効果を実感できない状況が生まれているのだ。
「大人のADHD」は、児童期から成人期まで持続している神経発達障害を認められることが、その診断の根拠となっていた。ところが、そんな大前提に真っ向から疑義を突きつけるような研究結果が、2015年に発表された。ニュージーランドの地方都市で同時期に誕生した子ども1037人を対象に、38年もの長期にわたって追跡調査が行なわれた。その結果は次の通りである。児童期にADHDと診断された人の9割以上は、年齢とともに治癒した。一方、成人になってADHDと診断された人のおよそ9割は、児童期にはADHDではなかった。つまり、成人のADHDは児童のADHDとは別物であることが示され、発達障害だという前提自体が怪しくなったのだ。
実際このほかの研究でも、成人のADHDと児童のADHDとで異なる特性がいくつも認められている。しかし、「大人のADHD」の原因が何であれ、かれらが助けを必要としているのは間違いない。
ADHDは先天的な神経発達障害だとされているが、その根拠はどこに由来するのだろうか。
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