リスクと対峙するとき、リスクそのものだけを扱うのでは不十分だ。リスクにはコミュニケーションが大きな影響を与えているからだ。効果的なコミュニケーションはリスクそのものを減らすことができる。一方で稚拙なコミュニケーションは、リスク回避失敗に直結し、パニックをもたらす。
感染症リスクにおいてもそれは同じだ。感染症の原因はほとんど目に見えず、短期的に集団に広がるなど、他の病気にはない特徴がある。だからこそ、独特の恐怖感を惹起する。それが、効果的なリスク・コミュニケーションが感染症にとって重要となるゆえんである。
リスク・コミュニケーションとは、健康、事故防止、環境問題といった様々なリスクを伴う場合のコミュニケーションだ。これはいろいろな目的にあわせて利用できる。災害などの緊急時には、人々を適切な行動へと促すために「説得」という形をとる。テレビの地震・津波速報で「高台に逃げてください」などと放送されることも、リスク・コミュニケーションの1つだ。
こうしたコミュニケーションは、相手の存在が前提となる。したがって、一方的な情報伝達ではなく、双方向の「対話」とならなければならない。相手の主張を無視して一方的に「正しい」情報発信をしても、目的は達成できないのだ。日本の場合、目的はそっちのけで「ちゃんとやった」という事実だけにこだわる場合が多い。コミュニケーションをとることはあくまで手段であり目的ではない。
リスク・コミュニケーションにはいくつかの分類があり、目的に応じて選択される。教科書的には主に3つに分けられる。
「クライシス・コミュニケーション」は、クライシス、つまり目の前の危機的状況におけるコミュニケーションのことを指す。災害時など緊急時に用いられ、多くは先述した「説得」の形をとる。
「コンセンサス・コミュニケーション」は、聞き手との双方向性の対話によって行なわれ、合意形成が目的となる。できるだけ多くのステークホルダー(関係者)がそこに参加することが望ましいが、現実にはそうはいかない。
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