あなたは、「1兆」の大きさをイメージできるだろうか? 「◯兆個」のものを目にする機会は滅多になく、その大きさを実感するのは難しい。
では1から順に1兆まで数えると、どのくらいかかるか考えてみよう。1時間は3600秒で1日は24時間だから、1日は約9万秒。1日あたりだいたい10万まで数えられるとすると、1年で3650万、3年で約1億。1兆まで数えるとおよそ3万年かかる計算だ。今から3万年前というとネアンデルタール人が絶滅した頃である。
ちなみに、1兆メートルは地球のおよそ2万5000周分であり、地球から太陽までの距離の約6.7倍である。このように意味付けされることで、「1兆」がとてつもなく大きな数であることが初めて実感できるだろう。
単位量あたりの大きさを利用した意味付けは、他人を説得する際に欠かせない。2008年、スティーブ・ジョブズはアップルのイベントで、初代iPhoneが「発売200日間で400万台売れた」ことを紹介した。その際「毎日2万台売れていることに等しい」と付け加えている。ジョブズは「1日2万台」という単位量あたりの大きさをうまく使うことで、一瞬にして数字の大きさの意味を聴衆に理解させることに成功したのだ。
大きな数字をイメージしやすくするために全体を小さな数字に縮小する手法は、様々な場面で利用されている。
「2×2×2」のように、同じ数を繰り返し掛けることを累乗という。掛け合わせる回数が増えると、途中から爆発的に変化する。
たとえば、新聞紙を折った時の厚さ。新聞紙の厚さを0・1ミリメートルとすると、n回折り曲げたときの厚さは0・1×2n(ミリメートル)である。14回では約164センチメートルと、成人女性の平均身長を超えるくらいになる。しかし、この後が急激だ。30回で約170キロメートル(東京〜熱海間の距離)、42回で月までの距離(約38万キロメートル)を超える。累乗は途中から爆発的に大きくなることがイメージできるはずだ。
累乗を拡張した指数関数を使うと、社会現象も記述することができる。18〜19世紀に活躍したイギリスの経済学者マルサスは『人口論』の中で、「今後、人口は等比数列的に増加する」と予測した。「等比数列的に増加」とは、「1、3、9、27、……」と、最初の数に同じ数を繰り返し掛けていくことである。その増え方は累乗の増え方にほかならない。
実際、19世紀末から世界人口は「人口爆発」と呼べるほどの速さで増加している。1800年に約10億人だった世界人口は、200年後の2000年には61億人まで増えた。2056年には100億人に達すると言われている。
指数関数というシンプルな初等関数で、人間の自由意志による社会活動の営みが表現できてしまう。そこに数学のとてつもない可能性を感じる。
0と、0から順に1ずつ増やす(1、2、3、……)か減らす(-1、-2、-3……)と得られる数の全体を、整数という。整数は私たちに馴染みのある数であるが、その性質は謎に包まれている。
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