とてつもない数学

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とてつもない数学
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2020年06月03日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

いきなりだが、次の問題を考えてほしい。

「横浜市内に、髪の毛の本数がまったく同じ人は複数いるか? ただし横浜市の人口は約350万人、人の頭髪本数は、最大15万本とする」

1日に抜ける髪の毛の本数や小さな産毛まで考えたら、「わかるわけないよ」と思うのが人情だ。正解はなんと、「いる」である。「適当に言ってるんじゃないの?」と突っ込まれそうだが、数学の「鳩の巣原理」を使えば証明できる。

4羽の鳩に対して3個の巣があるとする。4羽がみんな巣に入ったとすれば、2羽以上の鳩が入る“相部屋”が“必ず”できる。これが「鳩の巣原理」である。冒頭の問題に当てはめると、横浜市の人口(鳩)は1人の髪の毛の本数(巣)より多い。したがって、同じ巣(髪の毛の本数)に入る人は複数出てくる。ゆえに、数学的には「100%いる」と言い切れるのである。

数学は、このような複雑に見える問題も一瞬で解いてしまう。まさに、究極の合理性と美しさを兼ね備えた学問である。数学への苦手意識から「数字アレルギー」の人も少なくないだろう。しかし、現代のビジネスパーソンに欠かせないロジカル・シンキングや統計学、デザイン思考も、元をたどればすべて数学に行き着く。数学は、今を生きる私たちに欠かせない教養なのである。

本書は軽い切り口から深遠な“数学沼”に誘ってくれる、道先案内人のような一冊である。数学が好きな人も嫌いな人も、一読して損はない。ぜひ手にとって、数学のとてつもない面白さを実感していただきたい。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

永野裕之(ながの ひろゆき)
永野数学塾塾長。1974年東京生まれ。
父は元東京大学教養学部教授の永野三郎(知能情報学)。東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退後、ウィーン国立音大へ留学。副指揮を務めた二期会公演モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」(演出:宮本亞門、指揮:パスカル・ヴェロ)が文化庁芸術祭大賞を受賞。主な著書に『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)、『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』(PHP研究所)など。これまでに1000人以上の生徒を個別指導してきた実績を持ち、永野数学塾は、常に予約キャンセル待ちの人気となっている。
NHK(Eテレ)「テストの花道」出演。
朝日中高生新聞で『マスマスわかる数楽塾』連載(2016-2018年)。
朝日小学生新聞で『マスマス好きになる算数』連載(2019-2020年)。

本書の要点

  • 要点
    1
    巨大な数は「単位量あたりの数」に変換することで、具体性を持って理解させることができる。
  • 要点
    2
    数学の古典である『原論』は論理的思考法の基礎が詰まっており、欧米エリートの必読書になっている。「論理力」はリーダーの資質として欠かせない。
  • 要点
    3
    「ベンフォードの法則」を使えば、帳簿や投票の不正まで見抜けるようになる。
  • 要点
    4
    相関関係があるからといって因果関係があるとは限らない。統計を読み解くにはリテラシーが必要である。

要約

とてつもなく面白い数学

1兆ってどのくらいの大きさ?
elwynn1130/gettyimages

あなたは、「1兆」の大きさをイメージできるだろうか? 「◯兆個」のものを目にする機会は滅多になく、その大きさを実感するのは難しい。

では1から順に1兆まで数えると、どのくらいかかるか考えてみよう。1時間は3600秒で1日は24時間だから、1日は約9万秒。1日あたりだいたい10万まで数えられるとすると、1年で3650万、3年で約1億。1兆まで数えるとおよそ3万年かかる計算だ。今から3万年前というとネアンデルタール人が絶滅した頃である。

ちなみに、1兆メートルは地球のおよそ2万5000周分であり、地球から太陽までの距離の約6.7倍である。このように意味付けされることで、「1兆」がとてつもなく大きな数であることが初めて実感できるだろう。

単位量あたりの大きさを利用した意味付けは、他人を説得する際に欠かせない。2008年、スティーブ・ジョブズはアップルのイベントで、初代iPhoneが「発売200日間で400万台売れた」ことを紹介した。その際「毎日2万台売れていることに等しい」と付け加えている。ジョブズは「1日2万台」という単位量あたりの大きさをうまく使うことで、一瞬にして数字の大きさの意味を聴衆に理解させることに成功したのだ。

大きな数字をイメージしやすくするために全体を小さな数字に縮小する手法は、様々な場面で利用されている。

累乗のとてつもない爆発力

「2×2×2」のように、同じ数を繰り返し掛けることを累乗という。掛け合わせる回数が増えると、途中から爆発的に変化する。

たとえば、新聞紙を折った時の厚さ。新聞紙の厚さを0・1ミリメートルとすると、n回折り曲げたときの厚さは0・1×2n(ミリメートル)である。14回では約164センチメートルと、成人女性の平均身長を超えるくらいになる。しかし、この後が急激だ。30回で約170キロメートル(東京〜熱海間の距離)、42回で月までの距離(約38万キロメートル)を超える。累乗は途中から爆発的に大きくなることがイメージできるはずだ。

累乗を拡張した指数関数を使うと、社会現象も記述することができる。18〜19世紀に活躍したイギリスの経済学者マルサスは『人口論』の中で、「今後、人口は等比数列的に増加する」と予測した。「等比数列的に増加」とは、「1、3、9、27、……」と、最初の数に同じ数を繰り返し掛けていくことである。その増え方は累乗の増え方にほかならない。

実際、19世紀末から世界人口は「人口爆発」と呼べるほどの速さで増加している。1800年に約10億人だった世界人口は、200年後の2000年には61億人まで増えた。2056年には100億人に達すると言われている。

指数関数というシンプルな初等関数で、人間の自由意志による社会活動の営みが表現できてしまう。そこに数学のとてつもない可能性を感じる。

整数の不思議
FrankRamspott/gettyimages

0と、0から順に1ずつ増やす(1、2、3、……)か減らす(-1、-2、-3……)と得られる数の全体を、整数という。整数は私たちに馴染みのある数であるが、その性質は謎に包まれている。

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要約公開日 2020.09.03
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