考え続ける力

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考え続ける力
出版社
出版日
2020年05月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

突然だが「考える」とは何だろうか? 上司からは「もう一度考えて」と企画書を突き返され、「ちゃんと考えないと、生き残っていけないよな」と同僚とぼやく。しかし、「考える」という言葉ほど曖昧なものはない。日々結果を求められるビジネスパーソンの中には、「新しいアイデアを出さなければ」と焦る気持ちに押され、結局「どこからどう考えていいのかわからない」という人も多いかもしれない。

本書は、若き気鋭の予防医学研究者・石川善樹氏による「思考シリーズ」第2弾である。前著『問い続ける力』(ちくま新書)では、考えるための「問い」にフォーカスした。今回はいよいよ本丸の「考える」ことに切り込んでいく。

まずは著者自身が目標とする「創造性のスタイル」が紹介され、さまざまな分野で創造性を発揮している5人の賢人たちと、知的刺激に満ちた対話を繰り広げていく。安宅和人氏、濱口秀司氏、大嶋光昭氏、小泉英明氏、篠田真貴子氏という豪華なメンバーだ。登場する賢人たちの共通項は、単一分野のスペシャリストではなく、異なる複数の分野で何度もイノベーションを起こしていることだ。1つだけなら、その分野の天才かもしれない。しかし複数になると、何かしらの再現可能な方法論を体得している可能性が高い。

イノベーターたちの実践する思考法には、「こんなことを出発点に考えているのか!」といった新鮮な発見が多々あるだろう。本書を読み終える頃には、あなたの背中に「思考の翼」が生えているかもしれない。

ライター画像
矢羽野晶子

著者

石川善樹(いしかわ よしき)
予防医学研究者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念工学など。主な著書に『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』(News Picksパブリッシング)、『問い続ける力』(ちくま新書)等がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    あらゆることが考え尽くされた状況の中で、新しいアイデアを生み出すには「大局観」が不可欠だ。大量の情報を考え直し、視座を変えることで、誰もたどり着いていない「空白」を見つけることができる。
  • 要点
    2
    既存市場の中でどれだけ質を高めても、「新しく質の低いもの」には勝てない。まずは新しくして、それから質を高めるべきである。
  • 要点
    3
    人は誰しもバイアス(思い込み)を持っている。これを見つけて破壊することで、イノベーションが生まれる。

要約

Think Different

創造的に考えるとは何か?
BlackJack3D/gettyimages

本書のテーマは「創造的に考える、すなわち、Think Differentとは何か?」である。何かを「考える」時にはまず、「どこから考え始めるか?」から考えなければならない。

Think Differentの「Different」の語源をたどると、「離れたところに置く」とある。つまり、みんなが固まっているところから距離を置くという意味である。日本では、多くの人が同じようなことを考えているため、それと違うことを考えるのは簡単だ。しかし海外では、基本的にみんな考えていることがバラバラである。では、「みんな違う」という前提のもとで、さらに違うということは、どういうことなのか。

ビールを例にとろう。昔は数えるほどの商品しかなかったのに、今は相当な種類の商品がある。さらには、発泡酒や第三のビールまで販売されている。このような状況の中でイノベーションを起こすためには、さらに違うことを考えなければならない。今はビジネスでも研究でも、あらゆる分野でThink Differentが求められている。

松尾芭蕉のすごさ

歴史上、日本人で最もThink Differentしたのは松尾芭蕉だ。MITメディアラボのセザー・ヒダルゴ氏が考案した、歴史上の人物の影響力を点数化する「ヒストリカル・ポピュラリティ・インデックス(HPI)」という指標がある。具体的には、ある人物に関するWikipediaについて、「その人のページが何カ国語に訳されているか」「どれくらいのページビューがあるか」を計算する。すると、意外にも松尾芭蕉が1位であった。なお、2位以下は織田信長、昭和天皇、葛飾北斎、徳川家康と続く。

松尾芭蕉といえば、「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句が有名だ。この句がなぜすごいのか。まず、「古池や」は「侘び」を表している。「古池」は「池」と違い、かつて池であったものをイメージするため「侘び」といえる。次に「蛙飛び込む」は「雅さ」と「下品さ」の象徴である。『新古今和歌集』以後、蛙の鳴き声は雅の象徴であった。しかし、その蛙を鳴かせずに飛び込ませるのは下品ということになる。そして最後の「水の音」は「寂び」を示す。「寂び」とは、物事の生命の本質がみずみずしく現れているということだ。つまりここで初めて池が死んでいなかったことがわかる。

「生命のいない白黒の世界」から「みずみずしい生命あふれるフルカラーの世界」へとドラマチックに展開する。そんな句を生み出せるのが、松尾芭蕉のすごさなのだ。

破壊的イノベーション
Magnetic-Mcc/gettyimages

では、芭蕉をThink Differentの観点から分析するとどうか。そもそも、新しいアイデアを生み出すには、論理、直観、大局観の3つが必要である。

中でも最も鍛えるのが難しいのは大局観だ。これまで考え尽くされた問題を解くためには、大局観が欠かせない。なぜなら、大量の情報を新しい方向から考え直し、誰もたどり着いていない空白地帯を見つけなければ、答えが出ないからだ。しかし、一見「やり尽くされている」ような事象も、視座の「軸」を変えることで「空き」を見つけられる。破壊的イノベーションは、アップグレード(質)とアップデート(新しさ)のように、「あちらを立てたらこちらが立たない」という「トレードオフ構造」を両立させたところに起こるのだ。

この前提をもとに、松尾芭蕉のすごさに関する分析に進もう。日本にはもともと貴族が詠んでいた「和歌」がある。俳諧は和歌のターゲットを変え、ふざけた要素を加えてアップデートしたものである。芭蕉はさらに、この俳諧に「侘び」「寂び」をとり入れてアップグレードした。つまり、芭蕉のすごさは「まず新しくした後に、質を高めた」ところにあるといえる。一方、既存顧客(貴族)に過剰適応した和歌は、新しいターゲット(庶民)に展開していくのが難しかった。先に質を上げると、「イノベーションのジレンマ」に陥ってしまう。既存の市場に順応し過ぎた結果、新参者の「質が低いが新しいもの」に駆逐されてしまうのだ。そのため、まずは質にこだわらず、一回新しくした後に質を高める。これこそが、私たちが芭蕉から学べるThink Differentの鉄則である。

考えるということ 安宅和人(あたかかずと)

思考の核心

ここからは、「全く異なる複数の分野で、何度も創造性を発揮している日本の達人」とともに、「創造的に考えるとは何か」を考察していく。ポイントは、「全く異なる複数分野」である。1つの分野だけなら、才能や偶然の産物かもしれない。しかし複数となれば、その背景に何かしらのスタイル(方法論)があるはずだ。本要約では、本書に登場する5名のうち2名を取り上げる。

まずは、慶應義塾大学環境情報学部教授、ヤフーCSOで脳神経科学者の安宅和人氏。安宅氏は、思考とは「入力(インプット)を出力(アウトプット)につなげること」だという。入力と出力をつなぐ能力が「知性」である。

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要約公開日 2020.09.22
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