イギリスの作家、オルダス・ハクスリーはこんな名言を残している。「目を背けても、真実はなくならない」。これが何を意味するのか、身近な例で説明しよう。
たとえばある男性がダイエットをはじめるとしよう。「XYZダイエット法」がよさそうだと考え、実践する。毎朝体重計にのり、前の日より減っているときには微笑んだ。逆に増えているときは、この程度の増減は普通だと考え、気にもとめない。数か月後、体重はたいして変わっていないのに、彼は「XYZダイエット法」の効果を信じて疑わなかった。
このように、人は新しい情報を自分の意見や信念に合わせていいように解釈する。それを「確証のワナ」という。著名な投資家、ウォーレン・バフェットの言葉を借りると、「人間がもっとも得意とするのは、自分の見方が変わらないよう、新しい情報をフィルターにかけて取り除くことだ」。つまり、人は自分の考えと一致しない情報(以下、「反対の証拠」)をわざわざ見たりしないということだ。
この落とし穴にハマったとしても、ダイエットであれば傷は浅いだろう。だが、取締役会の場で重大な決定を下そうとしているときならどうだろうか。
では「確証のワナ」にハマらないためにはどうしたらいいのか。自然科学者のチャールズ・ダーウィンは、この「確証のワナ」を克服しようとしていた人物だ。常にメモ帳を携帯し、自分の推測と矛盾する観察対象を見つけるやいなや、メモに書き記していた。なぜなら、人間の脳は、「反対の証拠」を見ても、30分後には「忘れてしまう」ことを知っていたからだ。
自分の考えと矛盾する情報に目を向けることは、自分の誤りを正視することになりかねない。「自分の推測の誤りを証明するもの」を見つけるのは、自制心を必要とするし、骨が折れる。だからほとんどの人は「自分の推測の正しさを証明するもの」を探すのに躍起になる。もしあなたが「確証のワナ」にハマりたくないと思うなら、あえて「反対の証拠」を探してみることだ。賢い人はそうしている。
「確証のワナ」という落とし穴は、あいまいな予想のそばで大口を開けて私たちを待ち構えている。たとえば、経済専門家はこんなことをいう。「中期的にドル安圧力が高まる」。非常にあいまいな発言だ。中期的とは具体的にどれくらいの期間なのか。圧力という言葉は何を指しているのか。ドル安とは何を基準にしているのか。ゴールドか円か。それともペソなのか。発言をあいまいにして予想が当たりやすくしている。
経済ジャーナリストはあいまいな仮説を立て、たとえば「グーグルがこれほどまでに成功したのは、同社が創造性を育てているからだ」といった記事を書く。記事の中には、創造性があり成功している会社がほかにも数社取り上げられているだろう。もちろん、世の中には創造性がなくとも成功している会社はあるだろう。しかし、記事の裏づけにならない「反対の証拠」をわざわざ掘り起こしたりはしない。
成功のためのハウツー本や自己啓発本でも同じことがいえる。本に登場するのは著者の考えを実践することで幸せになった人たちばかりだ。実践しても幸せになれなかった人たちのことは書かれていない。
「確証のワナ」がやっかいなのは、自分ではなかなか気づけないという点だ。現代ではインターネットを介して、ほしい情報を簡単に手に入れ、人とつながることができる。目の前に現れるのは自分が探していた情報であり「反対意見」ではない。自分と考えが共通する人とはつながるが、意見の合わない人とはつながらない。
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