LIFESPAN(ライフスパン)

老いなき世界
未読
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LIFESPAN(ライフスパン)
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2020年09月16日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「人生100年時代」と言われるようになって久しい。だがそれによって、“よき人生”を得られるようになるかというと、かなり疑問だった。最後の数十年間に思いをめぐらすとき、社会保障、医療、介護、あるいは痴呆と、不安の種は尽きない。

こうした懸念に対して、「老化は病気の一種であり、それは治癒できるものである」と著者は断言する。これは一見すると、まったくおかしな考え方に思えるかもしれない。生きている以上、年をとることは避けられないと考えるのが普通だからだ。

だが著者は、「100歳になっても現在の50歳なみの活動レベルを保てる時代がやってくる」と予言する。なぜそのようなことが可能なのか。それは、老化の真因が解明されてきていることに加え、老化からリカバーする方法や化学物質が、次々と発見されているからだ。まさに数世紀に一度のパラダイム・シフトが近づいているというわけである。

だが待ってほしい。仮にそうなれば、地球はますます人にあふれ、そのキャパシティを超えるのではないか? あるいは格差のような社会問題がますます拡大するのではないか? そんな疑念が頭をもたげてくるし、そのことは著者も懸念している。だがむしろ、そうした課題に1日でも早く取り組むためにも、「老化は病気である」という前提に立った議論を始めるべきというのが著者の考えである。

とにかくきわめて刺激的な一冊だ。本書をめくることは、未来の一端を垣間見ることと同義である。

ライター画像
しいたに

著者

デビッド・A・シンクレア (David A. Sinclair)
世界的に有名な科学者、起業家。老化の原因と若返りの方法に関する研究で知られる。とくに、サーチュイン遺伝子、レスベラトロール、NADの前駆体など、老化を遅らせる遺伝子や低分子の研究で注目を浴びている。ハーバード大学医学大学院で、遺伝学の教授として終身在職権を得ており、同大学院のブラヴァトニク研究所に所属している。ほかにも、ハーバード大学ポール・F・グレン老化生物学研究センターの共同所長、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア・シドニー)の兼任教授および老化研究室責任者、ならびにシドニー大学名誉教授を務める。その研究は、新聞・雑誌・ポッドキャスト、テレビ、書籍などで頻繁に取り上げられている。研究が紹介された主なテレビ番組には、『60ミニッツ』『バーバラ・ウォルターズ・スペシャル』『NOVA』『モーガン・フリーマンが語る宇宙』などがある。これまでに170本あまりの科学論文を発表し、50件あまりの特許を共同発明。また、老化、ワクチン、糖尿病、生殖能力、がん、生物兵器防衛などの分野で、14社のバイオテクノロジー企業を共同創業している。科学誌『エイジング』の共同主幹であり、国防関係機関やNASAとも共同研究を行なうほか、これまでに35の賞や栄誉を授与されている。その主なものには、「オーストラリアを代表する45歳未満の科学者」の1人に選出、オーストラリア医学研究賞受賞、アメリカ国立衛生研究所長官パイオニア賞受賞、『タイム』誌による「世界で最も影響力のある100人」の1人に選出(2014年)、「医療におけるトップ50人」の1人にも選出(2018年)などがある。2018年、医療と国家安全保障に関する研究が認められ、オーストラリア勲章を受章。

マシュー・D・ラプラント (Matthew D. LaPlante)
ユタ州立大学で報道記事ライティングを専門とする准教授。ジャーナリスト、ラジオ番組司会者、作家、共著者としても活躍。主な活動については、www.mdlaplante.comを参照のこと。

本書の要点

  • 要点
    1
    老化の仕組みは解き明かされつつある。老化はありふれた病気であり、治療も可能だということが見えてきた。
  • 要点
    2
    老化に対しては、すぐにでもできる対処法があるし、画期的な治療薬や医学療法にも手が届きつつある。
  • 要点
    3
    老化の克服がもたらすのは、90年でも100年でも働き続けられる世界である。まさに科学技術によるパラダイム・シフトの到来である。
  • 要点
    4
    そのとき私たちは未来の「当事者」になり、社会と地球のさまざまな課題を乗り越えていくことになるであろう。

要約

老化はありふれた病気である

誰が100歳を望むだろうか

人生100年と言われるようになってずいぶん経つ。しかし私たちの多くは、100歳まで生きることを強くは望んでいない。なぜなら人生最後の数十年間がどういうものかを、目の当たりにしてきたからである。人工呼吸器と種々雑多な薬、股関節骨折とおむつ、化学療法に放射線、手術に次ぐ手術、そしてとりわけ「医療費」。私たちは寿命を延ばすことに成功した。だがそのせいで、「晩年=医療を受けること」という認識を生んだのではないだろうか。

ところが、若々しくいられる時期をもっと長くできるかもしれない。だとしたら、どう考えるだろうか。

ゲノムはデジタルな情報
Kotkoa/gettyimages

なぜ老化という現象が生物に備わったのかについて、「老化の情報理論(Information Theory of Aging)」に基づいて考えてみたい。

まず押さえておきたいのは、「生体内には2種類の情報がある」という点である。

ひとつは、よく知られている「ゲノム」の遺伝子情報だ。ゲノムを構成するのはDNAである。DNAはデジタル方式なので、情報の保存やコピーを確実に行える。途方もない正確さで情報を繰り返し複製できる点においては、コンピュータメモリやDVD上のデジタル情報と基本的に変わらない。

アナログなエピゲノム

体内にはもう1種類の情報が存在する。それが「エピゲノム」と呼ばれるものだ。こちらはアナログ情報である。

私たちの体をつくる細胞には、すべて同一のDNAがしまわれている。だとしたら、神経細胞と皮膚細胞の違いを生んでいるものは何なのか。その答えがエピゲノムだ。エピゲノムが、どの遺伝子のスイッチを入れ、どの遺伝子をオフのままにしておくのかを調整している。

人の新生児を想像してみてほしい。新生児は、たった1個の受精卵から出発して、約260億個の細胞をもつようになる。細胞1個1個にはすべて同じDNAが格納されているのに、それぞれの細胞は何百種類もの異なる役割へと分化する。そのプロセス全体を調整しているのがエピゲノムである。エピゲノムは、分裂するそれぞれの細胞に対して、どのような種類の細胞になればいいのかを教えるのだ。

これが老化の正体である

エピゲノムは、細胞のアイデンティティを決定する。問題は、それがアナログということだ。デジタルと違って、アナログ情報は時間とともに劣化する。なによりコピーする際に、少しずつ情報が失われてしまう。

エピゲノムの情報が失われると、細胞は自らのアイデンティティを失い、生まれ替わる細胞もアイデンティティを見失う。そうなれば、組織や臓器は次第にうまく機能しなくなって、ついには動きを停止する。これが「老化」の正体である。筋力は低下し、目は濁り、関節は痛み、骨の密度が失われ、認知はあやしくなる。エピゲノムが劣化することこそが、老化の原因なのである。

老化は治療が可能である
Milena Shehovtsova/gettyimages

老化の正体が科学的に解明されるにつれ、新たなパラダイムが拓けてきた。すなわち、老化とは「ありふれた病気」であり、「治療」が可能であるということである。

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要約公開日 2020.09.16
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