出版社の雑誌編集部に勤める副編集長・小林希(29)は、史上最年少の編集長就任に意欲を燃やしていた。昇進するには、4年連続となる売上記録更新を実現しなければならない。
そこで希が企画したのは、チョコレート専門店「サンセリテ」のオーナーであり、伝説のショコラティエである土尾紀男(60)の巻頭インタビューだった。
ところが、希の強引な態度を好ましく思わない土尾は、元々メディア嫌いということもあって、なかなか取材を受けてくれない。シニア編集者の本間健太郎(52)は土尾と接点はあるものの、希を出世させまいと非協力的で、真っ向から対立する。
そんなとき、土尾の右腕・上山公二(34)がフランスの名門店での修行を終えて帰国する。すぐにでも新作を土尾に試食してもらい、実力を認めてもらいたいという野心に燃える。
なんとしても業界のレジェンドである土尾の特集を自身の手で成功させたい希は、上山に土尾との対談を言葉巧みに持ちかける。希が尊敬している編集長の横田航(42)は、希のために本間との仲裁に入るが、希と本間との衝突は激化する一方。希はいったいなぜ、そこまで土尾に執着するのか。希が編集長を目指す先に求めているものとは?
異なる価値観を持つ登場人物たちの「生き方」がぶつかり合いながらも、事態は思わぬ展開を迎えることとなる。
人には仕事をする上で大切にしている価値観がある。アメリカの心理学者、ドナルド・E・スーパー氏は、それを「14の労働価値」として提唱した。
「14の労働価値」とは、「能力の活用」「達成」「美的追求」「愛他性」「自律性、自立性」「創造性」「経済的価値」「ライフスタイル」「身体的活動」「社会的評価」「危険性、冒険性」「社会的交流性」「多様性」「環境」である。
たとえば、これらを漫画編のキャラクターに当てはめると次のようになる。
最年少編集長の座を狙って4期連続の売上部数記録更新に挑むのが、主人公・小林希である。彼女が仕事で重視しているのは、「自分の能力を活用すること」「達成」「美的に追求できること」「自立的で創造的な仕事であること」だ。
それに対して、ことあるごとに希と対立するベテラン編集者の本間健太郎はどうか。彼が大切にするのは、「ライフスタイル」や「環境」だ。希が大切にする価値観は、本間にとってはそれほど重要ではない。
14の労働価値に照らして比較してみると、二人が仕事をする上で大切にしている価値観にズレがあることに気づくだろう。職場で起こる衝突は、たいていこういった価値観の相違に起因していることが多い。
もう一組のキャラクター、土尾と上山についても比較してみよう。
土尾紀男は日本を代表するショコラティエである。その右腕として働いていた上山公二は、パリの名門で5年間の修行を終えて意気揚々と帰国した。すぐさま土尾に新作を披露し、実力を認めさせたいと意欲に燃えていた上山にとって、特に大切な価値観は「経済的価値」と「社会的評価」である。
かたや土尾にとって、報酬や社会的評価の重要度は下がっていた。それゆえ以前ほどは仕事への厳しさもなく、自分でショコラを作ることもなくなっていた。それが上山には情熱を失ったように見えたのだ。
実際のところ、土尾は後進の教育に力を注ぐようになっていた。この価値観の相違によって、野心家の上山は尊敬する師匠へ不信感を抱くようになり、それが衝突を招いてしまう。
食事や衣服、住む場所などの「身体的な好き嫌い」は、お金があればなんとかなる。しかし「思想的な好き嫌い」はお金ではどうにもならない。これには唯一の正解はないからだ。
「自分と他人は違うものだ」と考えれば、気が楽になるかもしれない。だが、それでは永遠にわかり合える日は来ない。価値観が違う部分もあるが、わかる部分もあることを丁寧に再確認しながら少しずつ歩み寄る。それが大人になるということなのだ。
「今の仕事に100%満足しているか」と聞かれて、YESと答えられる人はなかなかいない。現実的には、100%完璧な職場など存在しないからだ。では、それでも満足のいく生き方をするためには、どうすればいいのか。
3,400冊以上の要約が楽しめる