あなたが管理職の立場にあるとする。部下が船、そして目標を島だと仮定してみよう。船が置かれている現状を部下自身で認識できるようにし、不安を軽減して、目的の島までの航海をサポートするのが「コーチ」である。コーチングとは、相手という船が目的の島に最短の航路で向かうために効果的にサポートするコミュニケーションスキルだ。
コーチングによる効果の一つは、「相手にとって『話を聴いてもらいたいひとになれる』ということ」である。部下にとって「話を聴いてもらいたいひと」になれたらどうか。部下は自ら錨を上げ、たとえ逆風でも広い海原へと進み、自分で判断できる能力を備えるようになるだろう。部下が発揮する能力は、「いい気持ちで働けるサポートができるかどうか」というあなたの管理職としての能力にかかっている。
船のナビゲーションは航海の専門家にしかできない。だが錨をもちあげるための安心を生み出すことは、コーチングによって誰でも行えるのだ。
組織でコーチングを行う場合、管理職がコーチングスキルだけを学んでいても成功は難しい。同時に自分のインターナル環境(内面的環境)のトレーニング、すなわち意識改革に取り組む必要がある。上辺だけのコーチングスキルでは部下を操作することになり、成果を出せなくなるからだ。
本書の目的は、コーチングの両輪である「コーチングする側がどのようにスキルの研鑽を行うのか」と、「コーチはどのようにインターナル環境を整えるのか」を紹介することである。
現役時代は名選手といわれたひとでも、指導者として名を残せるひとと、そうでないひとがいる。その二つを分けているのは、「選手個々の技能を見極め、優れた部分に焦点を当て、伸ばせるひと」か、「誰にでも自分のノウハウを押しつけ、合わない選手を潰してしまうひと」かという違いだ。指導者が厳しく自分のやり方を押しつけてきた組織では、いざ試合の際、選手たちはコーチの指示待ちとなり、立ち往生してしまう。
コーチングとは、会話によって相手の優れた能力を引き出しながら、前進をサポートし、自発的に行動することを促すコミュニケーションスキルだ。そこには「指導」という概念はなく、コーチとその相手は対等な立場となる。相手の職業に関する専門知識も必要ない。コーチングスキルを習得すれば、どのような相手との会話でもそれを活かせるようになる。
ひとは他人から命令されたときではなく、自分で「答」にたどりついたときに前進できる。答はそのひとの中にあるとするのが、コーチングの考え方だ。コーチの役割は、相手が答にたどり着くために、聴いて、受け入れて、質問することである。自発的にたどり着いた答に基づく行動は、命令による行動よりも、最終的に高い成果を得られる。ひとはみな条件が整えば、自分の力を最大限に発揮して、自己実現に向かうものなのだ。
コーチングの大きな目的の一つは、ひとの潜在している能力を引き出すということにある。そのためには、「質問する」ことが有効だ。コーチングでは、「達成目標」をコーチに宣言する。目標を達成して成功した姿を宣言し、言語化することで、意識は成功することと深く関わりはじめ、成功のための機会に敏感になる。
コーチングは、質問して、聴いて、受け入れるという三つのスキルさえあれば、ある程度機能する。私たちは、自分の頭の中にある「ふるい」を通してひとの話を聞きがちだ。それでは選りすぐられた情報だけが残ってしまう。この「ふるい」と戦って、頭に浮かんだ自分の思いをすぐに手放し、相手の話を100%理解しようと思って聞く。これこそがコーチングにおける「本当に聴くこと」といえる。
質問して、答を聴くことを繰り返したら、「コミュニケーションを完結させる」ことが大切だ。相手の話を要約したり復唱したりして、「話を受け入れた」というサインを発信することで、コーチングのワンサイクルが終了する。
「承認」は、部下を認め、強みを最大限発揮させるのに効果的なスキルである。大げさに褒めることとは違う。相手の「存在」について、あなたの「今ここで」の気持ちを伝えることだ。
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