人間はこれまで、自然に対して及ぼす力を驚異的な勢いで増大させてきた。しかし、その力を「思考」によってコントロールする方法の探求はされてこなかった。その結果、世界紛争の回避は困難を極め、各国の政策も混迷の中にある。経済や法律の分野においても同様で、構想がないがしろにされて批判ばかりが大手を振っている。さらには、個人個人の振る舞いにおいても、古い価値観への揺さぶりはあるものの、新たな倫理が構築される兆しはない。
このように、いま、かつてないほど切実に「思考」が必要とされている。本書では、様々な分野で用いられる「思考プロセス」を取り上げ、それをどこまで改善できるか、より効率的な思考の技法をどこまで生み出せるかを論じていく。
現代的思考は、「科学的」方法によって得た知識に負っている部分が大きい。しかし、思考はそれだけではない。科学では説明できない、定式化できない「謎」が常にあるのだ。プラトンもソクラテスから、論理でも知識の蓄積でもない「何か」を学んでいた。
思考の技法を考えていくにあたっては、意識を持った自分という人間は完全に調和した統合体である、という考えをまず検討しなおす必要がある。つまり、自分の意識下にある自己は、不完全で改善可能なものなのだと理解しなければならない。
私たちの毎日には様々な生理的・心理的出来事が起こるが、それぞれにどれだけの意識が向けられているかは、恐ろしく恣意的なのである。完全な意識の枠外にある出来事、「無意識」については、観察していないか、したとしてもすぐに忘れてしまう。それはちょうど、私たちの視野に、焦点とそれを取り囲む周辺があるのと同じである。視野の周辺部分は、普段は意識されることがない。しかし、努力によって視野の周辺の対象物を観察することも可能である。意識においても、「焦点」にあるものに注意が向くために、周辺にある心的出来事を無視しがちなのだ。精いっぱい努力すれば、意識の周辺にある心的出来事を、周辺にあるまま観察することができるようになる。
こうして意識的な努力で人間行動を改善しようとする試みが、思考の技法である。
思索を行う人間は、思考プロセスのどの段階に意識的な努力を集中させていくべきだろうか。新しい思考が形成される際には、4つの段階があると考えられる。
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