思考の技法

未読
思考の技法
出版社
出版日
2020年05月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
要約全文を読むには
会員登録・ログインが必要です
本の購入はこちら
書籍情報を見る
本の購入はこちら
おすすめポイント

本書には、現代政治学の展開に大きな影響を与えたグレアム・ウォーラスによる、思考についての分析がまとめられている。思考とは何かという問題提起から始まり、創造的な思考、アイデアをいかにして生み出すことができるか、さらには思考力を伸ばすための教育制度などにも議論が展開されていく。

1926年の著作で時代背景も異なるため難解な部分もあるが、本要約にまとめた「技法」についての個所などは、いまでも十分に参考となる。特に、思考のプロセスを4つの段階に分けて分析し、それぞれにどういった働きかけをすることができるのかを考えていく手法は、創造的な思考を求める人々にとって大きな助けになるだろう。実際、現代でもクリエイターの間で読み継がれている、アメリカの広告業界で活躍したジェームス・W・ヤングによる世界的ベストセラー『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)は、本書の強い影響下にあるとされる。併せて読むことでさらに理解が深まり、応用の効く知識になるに違いない。

思考やアイデアについて、分かりやすく実践的な本は数多く書かれている。本書はそういった現代の書物と比較すると読みやすいものとは言えないだろう。しかし、それは著者が、思考というつかみどころのないものを誠実に分析し、改善する有効な手立てを慎重に検討しているからに他ならない。思考やアイデアについてじっくりと考えたい人たちにとって、本書はこれ以上ない有益な手引きとなりうる。腰を据えてじっくりと取り組みたい一冊である。

著者

グレアム・ウォーラス
1858‐1932年。イギリスの政治学者・社会学者。オクスフォード大学を卒業後、ハイゲート・スクールの古典教師などを経て、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭をとる。1886年にフェビアン協会の正式会員となり、中心的役割を担うがのちに離脱。政治における感情・情緒などの心理学的側面に注目し、「巨大社会」における個人や共同体のあり方を模索した。おもな邦訳書に『政治における人間性』などがある。

松本剛史(まつもと つよし)
1959年、和歌山県生まれ。翻訳家。おもな訳書に、チャイナ・ミエヴィル『オクトーバー』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    科学技術が進歩し、一方で世界紛争が絶えず起こり、個人の生活においては既存の価値観との軋轢が生じている現代においては、かつてないほどに思考が必要とされている。
  • 要点
    2
    思考プロセスは〈準備〉、〈培養〉、〈発現〉、〈検証〉の四つの段階を踏む。これらを分析することで、どの段階にどの程度意識的努力をむければよいかがわかる。
  • 要点
    3
    習慣が思考を助けることもある。しかし、単なる勤勉は創造性を妨げる。習慣の奴隷になるのではなく、習慣の主人とならねばならない。

要約

思考するとはどんなことか

思考の時代

人間はこれまで、自然に対して及ぼす力を驚異的な勢いで増大させてきた。しかし、その力を「思考」によってコントロールする方法の探求はされてこなかった。その結果、世界紛争の回避は困難を極め、各国の政策も混迷の中にある。経済や法律の分野においても同様で、構想がないがしろにされて批判ばかりが大手を振っている。さらには、個人個人の振る舞いにおいても、古い価値観への揺さぶりはあるものの、新たな倫理が構築される兆しはない。

このように、いま、かつてないほど切実に「思考」が必要とされている。本書では、様々な分野で用いられる「思考プロセス」を取り上げ、それをどこまで改善できるか、より効率的な思考の技法をどこまで生み出せるかを論じていく。

意識の周辺にあるものを観察可能にする
GeorgePeters/gettyimages

現代的思考は、「科学的」方法によって得た知識に負っている部分が大きい。しかし、思考はそれだけではない。科学では説明できない、定式化できない「謎」が常にあるのだ。プラトンもソクラテスから、論理でも知識の蓄積でもない「何か」を学んでいた。

思考の技法を考えていくにあたっては、意識を持った自分という人間は完全に調和した統合体である、という考えをまず検討しなおす必要がある。つまり、自分の意識下にある自己は、不完全で改善可能なものなのだと理解しなければならない。

私たちの毎日には様々な生理的・心理的出来事が起こるが、それぞれにどれだけの意識が向けられているかは、恐ろしく恣意的なのである。完全な意識の枠外にある出来事、「無意識」については、観察していないか、したとしてもすぐに忘れてしまう。それはちょうど、私たちの視野に、焦点とそれを取り囲む周辺があるのと同じである。視野の周辺部分は、普段は意識されることがない。しかし、努力によって視野の周辺の対象物を観察することも可能である。意識においても、「焦点」にあるものに注意が向くために、周辺にある心的出来事を無視しがちなのだ。精いっぱい努力すれば、意識の周辺にある心的出来事を、周辺にあるまま観察することができるようになる。

こうして意識的な努力で人間行動を改善しようとする試みが、思考の技法である。

【必読ポイント!】 コントロールの諸段階

思考プロセスは4つの段階を踏む
Antiv3D/gettyimages

思索を行う人間は、思考プロセスのどの段階に意識的な努力を集中させていくべきだろうか。新しい思考が形成される際には、4つの段階があると考えられる。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2381/3404文字

3,400冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2020.10.07
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.
一緒に読まれている要約
思うことから、すべては始まる
思うことから、すべては始まる
植木宣隆
未読
考え続ける力
考え続ける力
石川善樹
未読
無意識がわかれば人生が変わる
無意識がわかれば人生が変わる
前野隆司由佐美加子
未読
起業家の勇気
起業家の勇気
児玉博
未読
「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考
「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考
西岡壱誠
未読
鈍感な世界に生きる敏感な人たち
鈍感な世界に生きる敏感な人たち
イルセ・サン枇谷玲子(訳)
未読
やってのける
やってのける
児島修(訳)ハイディ・グラント・ハルバーソン
未読
Think right
Think right
ロルフ・ドベリ中村智子(訳)
未読