金融危機から約20年が経過し、銀行を取り巻く環境は激変した。かつてのように預金を多く集め、国債や融資に資金を回すことで得られた長期金利と短期金利の金利差から生じる収益はもはや望めず、規模で稼ぐ伝統的な銀行の経営モデルは崩壊した。
地方銀行や信用金庫、信用組合などは、テクノロジーの驚異的な進化や利用者の価値観の変化、経営者の高齢化、人口減少といった構造問題への対応に直面している。これまで顧客本位ではないサービスに力を入れてきた銀行のほか証券会社、保険会社は軌道修正を迫られている。
そこに襲いかかったのが新型コロナウイルス感染症である。経済は一時期、仮死状態に陥った。以前のリーマン・ショックでは、高リスクの金融商品をばらまいて巨額の利益を上げた投資銀行のビジネスモデルが問題となった。それも、世界の金融当局が連携して自己資本規制と銀行監督の強化で抑え込んだ。各国中央銀行が大規模金融緩和を行って、景気を浮揚させもした。一方、今回のコロナ禍は、生活や働き方、消費などに対して、大きな価値観の変容を迫った。
ますます銀行は時代の変化を察知し、適応する知的生命体にならなければならない。アフターコロナの世界で銀行は、社会課題の解決を通じて、持続可能な社会づくりに貢献しながら安定的な収益を上げる金融機能を持った、知的創造企業になることが望まれる。
金融危機からの約20年で、金融機関の過大な資産規模や体力を支えるための収益を失ったことがリスクになった。資金運用では収益管理やリスク管理が追いついておらず、店舗戦略や商品、サービス、人材育成なども時代遅れになっている。
そうした時代遅れのビジネスモデルにおいては、自己資本比率の低下が明確になってから金融庁が動き出す早期是正措置では遅い。そこで見直されたのが早期警戒制度だ。もともとは主要行の不良債権問題を解決するために、「収益性」「安定性」「資金繰り」の観点から改善が必要と判断されたところに業務改善命令を出す仕組みである。これが、「持続可能な収益性と将来にわたる健全性」を強調する内容に改訂された。株主だけでなく利害関係者全体の利益を考える「ステークホルダー資本主義」が重視され、利益の質も問うものとなっている。
ここでは、経営陣が時間軸を意識した実現可能性のある経営戦略・計画を作成し、実行しているかに着眼している。改善が必要な場合は経営トップとの探求型対話を先に行い、自助努力を促す。それでも疑念を払拭できなければ立ち入り検査に及ぶ。
しかし、持続可能性がどうしても見通せない地銀があるとしたら、それを処分するだけでは意味がない。上場会社であることの妥当性も含めて、抜本的な地銀のあり方を再検討する時期が来ているといえる。早期警戒制度だけで地域金融機関の持続可能性が解決することはありえない。銀行を信金にくらがえさせる、信金に吸収させるといった業態転換の法整備も含めた、ニューノーマルな解決策が必要だ。
地域金融の合併に対して、何か地域の問題をすべて解決してくれるかのような甘い期待を抱いているとしたらとんでもない誤解だ。合併によって国内業務で革新的に成功した銀行モデルはまだ現れていない。多くの合併銀行には、合併前の銀行同士の対立や駆け引き、決して混じり合わない組織文化が散見される。元金融庁長官の森信親氏は、「金融機関が合併、統合した場合は、新しいビジネスモデルをつくりださなければならない」と述べた。
実際には社内政治が優先され、新しいビジネスモデルはなかなか創造されない。
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