ウェブの恩恵によってアイデアとラップトップさえあれば誰でも起業家になることが出来るようになった。ソフトウェアのコードを組めばアイデアを商品化でき、グローバル市場にいる数十億人の消費者に簡単にその商品を出荷できるようになった。しかしこうしたイノベーションが起こっているのはこれまではビット(デジタル)の世界の話であったのだが、同じようなモデルが数倍(少なくとも5倍以上)の規模を持つアトム(リアル)の世界で影響を与えつつある。
これまでの製造業では大量生産には技術と設備と投資が必要になるため、ウェブと違ってすべての人には開かれておらず、大企業と熟練工にほぼ独占されてきた。しかしもの作りがデジタルとなったことでこれまでの製造業は在り方を変えつつある。いまやモノはスクリーン上でデザインされ、デジタルファイルによってオンライン上でシェアされる。また、3Dプリンタやレーザーカッターのようなデジタル工作機械がデスクトップで誰でも使えるようになったことで、デジタル化された情報からリアルの世界における物体を生み出すことが出来るのだ。例えば、メイカーボットの一般ユーザー向け3Dプリンタは、メイカー世代の想像力を刺激し、デスクトップ・ファブリケーションの驚くべき未来像を垣間見せてくれる製品だ。それはちょうど、30年前に誕生したはじめてのパーソナル・コンピュータと同じ存在なのだ。更にこうした流れを受けてメイカーによる起業が相次いでいるが、彼らは資金調達さえもウェブで行う。キックスターターをはじめとする「クラウドファンディング」サイトを通じてプロジェクトの資金を調達している。
即ち、こうしたメイカームーブメントには、伝統工芸からハイテク電子機器まで、大昔から存在しているさまざまなもの作りの活動とは全く異なる、次の3つの特徴があるといえる。
①デスクトップのデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること
②それらのデザインをオンラインのコミュニティで当たり前に共有し、仲間と協力すること
③標準化されたデザインファイルを用いること(自分のデザインを製造業者に送って作ってもらうことも、自宅で家庭用ツールを用いて自ら製造することも可能となる)
1970年代後半から1980年代はじめのパーソナル・コンピュータの開発、1990年代のインターネットとウェブの出現はそれぞれ革新的ではあったが、産業革命と呼ぶには充分とは言えなかった。第三次産業革命とは、デジタル・マニュファクチュアリングとパーソナル・マニュファクチュアリングが一体になったときに起こるもので、それがメイカームーブメントの産業化であるといえる。これらは物質的なモノの品揃えのボトルネックであった大量生産に見合うこと・大量流通に見合うこと・消費者の目に留まりやすいこと(広告、または最寄り店舗での販促を通して)という条件を打破し、ニッチなモノへの需要に対する供給のロングテールを可能にしている。
これまでの10年はウェブ上で創作し、発明し、協力する方法を発見した時代。これからの10年は、その教訓をリアルワールドに当てはめる時代なのだ。
自宅のデスクトップで使えるパーソナル・マニュファクチュアリングの装置として、3Dプリンタ、CNC装置、レーザーカッター、3Dスキャナーの四種の神器が挙げられている。
3Dプリンタはデスクトッププリンタにかなり近いものだが、従来のレーザー(またはインクジェット)プリンタがスクリーン上のピクセルをドットに転換し、インクかトナーで平面の媒体(通常は紙)の上に描くのに対して、3Dプリンタはスクリーン上の幾何学図形を取り込み、溶融プラスチックを積み上げてオブジェクトを作ったり、液体または粉末の樹脂にレーザーを照射して固めて立体を成形したりするなどしてものを作る装置だ。
3Dプリンタが「足し算」方式でものを作るのに対して、CNC装置は3Dプリンタに使うのと同じファイルから「引き算」の方式、つまりドリルを使ってプラスチックや木や金属の塊からものを削り出す装置だ。
レーザーカッターはプラスチックや木や金属の板の上に、強力なレーザーでどんな複雑な模様でも正確に描き出すことができるほか、CADソフトで3Dのオブジェクトを2Dのパーツに分解し、レーザーカッターで切った素材を組み合わせて3Dのオブジェクトを作ることも出来る。
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