「すぐれたCEOとは、オリンピックのアスリートのようなものだ」――27人のCEOを対象に調査を行なった、米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授はそう語る。
経営戦略の立案とCEOの時間管理は、相互に作用しあう関係にある。戦略は組織をまとめるうえで重要な役割を果たすが、その戦略をつくるには、なにより時間が必要だからだ。
ポーター教授は有効に時間を使うための方法として、4つのアドバイスを挙げている。1つ目は、仕事に優先順位をつけて重要業務に集中するために、補佐役に優秀な人物をつけること。2つ目に、向こう3~4カ月で何をすべきかの具体的なアジェンダ(課題)を設定すること。3つ目は、メールを返信する際のルールをつくり、重要なものだけに時間を割いて返信すること。最後は、明確な課題と入念な準備をすることで、会議の時間を短くすることだ。
よいリーダーシップを発揮させるために、CEOは睡眠時間やエクササイズ、家族と過ごす時間に対しても、規律のある生活を送るべきだとポーター教授はいう。CEOをオリンピックのアスリートにたとえる真意もここにある。
またポーター教授は、日本の経済や企業の成長率の低さ、生産性の低さにも言及し、その要因として特にDX(デジタル・トランスフォーメーション)への熱意のなさを憂えている。そして日本企業が活力を取り戻すうえでは、CSV(共有価値の創造)にも取り組むべきだと強調する。
いま経営学で最も注目されている理論のひとつが、「ダイナミック・ケーパビリティ」だ。これは組織と経営者が、急速な変化に対応するために内外の知見を統合・構築し、組み合わせ直す能力を意味する。具体的には、市場で事業機会や脅威を察知(Sensing)し、価値創造のため人材や資産を動かして競争優位を獲得(Seizing)、経営手法を日々改善しながら定期的に主要な戦略を変容(Transforming)させていく。
米カルフォルニア大学バークレー校経営大学院のデビッド・ティース教授は、ダイナミック・ケーパビリティのポイントとして「分権化」と「自己組織化」を挙げている。この考えを体現している企業が、中国の家電メーカー「ハイアール」だ。ハイアールは大企業でありながら、社員が個人で事業を立ち上げられる「マイクロ起業家モデル」という仕組みをもっている。その結果、企業の内部に多くのスタートアップがフラットに共生しているのだ。ハイアールには、10~15人の事業ユニットが5千程度あると言われている。
ティース教授は、こうした企業研究に基づき、不確実な環境に強い6つのリーダーシップの原則を考察している。それは予測、挑戦、解釈、意思決定、調整、学習だ。それぞれ予測と挑戦はセンシングに、解釈と意思決定はシージングに、調整と学習はトランスフォーミングに対応した能力になっている。
リーダーの「予測」する力や「挑戦」する力が、組織の変化対応力を高める。そして現状を正しく「解釈」することで、正しい「意思決定」ができるようになる。ただし不確実性とリスクは違う。予測可能なリスクに関しては、日常的なマネジメントや経営ツールを使って対応し、不確実性には「調整」と「学習」によって、組織をイノベーティブに変革していくことが必要になる。
仏インシアード経営大学院のジャズジット・シン教授によると、いまの企業はROE(自己資本利益率)を上げ、配当性向を高めるだけでは不十分だ。
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