モチベーションを辞書で引くと、「動機付け」と説明されている。モチベーションは行動の原因であり、その結果として行動が誘引されるということだ。「1万円あげるからコーヒーを買ってきて」と言われれば、嬉々としてお使いに行くだろう。
だが行動という結果に至る過程には、脳の中で起きる「直接的な原因」と、それに作用する「間接的原因」の2種類があることに留意したい。前述の「1万円」は間接的原因であり、これを「モチベータ」と呼ぶ。一方で、ある特定の脳部位にモチベータが届けられたときに起こる神経細胞の反応や、それに伴って放出される化学物質は、総称して「モチベーション・メディエータ」と呼ばれる。モチベーションを感じている状態というのは、すなわちモチベーション・メディエータを感じ、認知している状態のことを指している。
だからこそ自分自身を客観視、俯瞰視した「メタ認知」が、決定的に重要になる。メタ認知ができていないと、そもそも自分のモチベーションが高いか低いかもわからないからだ。しかもモチベータやモチベーション・メディエータの状態は一人ひとり異なる。そのため、自分で自分の状態を認知しようとしなければ、モチベーションとうまく付き合っていくことは難しいのである。
ビジネスパーソンであれば、ほとんどの方が「マズローの欲求五段階説」をご存じだろう。ただし神経科学的にみると、マズローの欲求段階説の上下関係は、必ずしも正しいとは言えない。
そこで「神経科学的欲求五段階説」を提唱する。これは下から(1)延髄:呼吸/体温/心拍/血圧、(2)大脳基底核・中脳:快・欲、(3)間脳:自律神経系、(4)大脳辺縁系:学習系、(5)大脳新皮質:高次機能系と区分される。
モチベーションという観点から神経科学的欲求五段階説を見てみると、上位の欲求ほどエネルギーを要することがわかる。なぜなら下位の欲求と違って、もとから強い神経回路を持ち合わせておらず、無意識的に選択されにくいからだ。
モチベーションには、トップダウン型とボトムアップ型の2種類がある。「あれを考えよう」「この勉強をしよう」はトップダウン型、「お腹が空いた」「眠い」はボトムアップ型のモチベーションだといえる。一般的には、ボトムアップ型のモチベーションの方が強い。だからうまくボトムアップ型のモチベーションを抑制したり、トップダウン型のモチベーションに転用したりすることが大切になる。
ボトムアップ型のモチベーションを、トップダウン型のモチベーションに転用する方法のひとつが、自分なりの「やる気スイッチ」をつくることである。まず本気で心を動かされる言葉や音楽、映画のシーンなどを見つけ、それを思い浮かべるとよい。そしてモチベーションが高まったら、その効果を自分のやりたい行動にシフトさせるのだ。
このとき、身体的動作を関連づけると、さらに効果を高めることができる。たとえば野球のイチロー選手やラグビーの五郎丸選手のように、独特な身体の動きとモチベーションを高める言葉を関連付け、繰り返し学習させると、それがあなたの「やる気スイッチ」になる。
お金は脳にとって特異な刺激物だ。
ポジティブなエピソードを伴う出来事は、脳に「価値記憶」として保存される。しかし大人になると、価値記憶を伴う快の体験はお金で買えてしまう。するとあらゆる価値記憶がお金と結びつき、脳の中でお金が他に例を見ない存在となってしまう。
「これをやると、これくらいの金額がもらえるかもしれない」という期待が良い方向に裏切られるとモチベータとなるが、悪い方向に裏切られるとネガティブな情動反応を引き起こす。継続的にモチベーションを高めるには、お金だけがモチベーションにならないように、仕事や学習といった取り組みを設計する必要がある。
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