人間の体内には「体内時計」が備わっている。時計というのはもちろん比喩で、脳の視床下部にある部位のことだ。体内時計は、24時間という周期を規則正しく刻んでいる。
実は、約5億年前のカンブリア期以前から、地球上の生物はほとんど同じ機能をもっている。昼や夜、夏や冬など、時間の周期的な変動に応答しつつ、からだとこころを最適な状況に微修正するとともに、予期せぬ自然環境の変化にも適応してきた。
体内時計には、親時計と子時計がある。脳にある親時計は、体内の細胞が持つ子時計に指令を出し、私たちの心・技・体のエネルギーバランスをバージョンアップしている。親時計をシンフォニーの指揮者とすれば、子時計は奏でるプレーヤーたちに例えられるだろう。両者が連携すれば、メリハリをつけてからだの細胞を操ることができ、パフォーマンスは大きく上がる。
人間は、「腹時計」という時計も備えている。腹時計の影響は親時計よりも強く、通常は脳に操られているはずの体温や運動、脈拍数のリズムすら、腹時計によって変化することがあるほどだ。なぜなら、餌が豊富でなかった古代においては、生体リズムに則って食事をとっていたのでは、生き延びることはできなかったからだ。
また私たちは、「体内時計」と「腹時計」に加えて、「こころの時計」も持ちあわせている。これは、10秒後や60秒後、あるいは6時間後や8時間後を予測する仕組みだ。「朝4時に起きよう」と目覚まし時計をセットして寝ると、4時数分前に目を覚ますことがあるだろう。これは、こころの時計が無意識のうちに働いた結果である。氷河期の人類が、マンモスに寝込みを襲われないように、危険の到来を予知し回避するために作り上げた仕組みである。
活動を開始したときに光を浴びると、生体リズムの位相は1時間前進する。その一方で、休息開始の時間帯に光を浴びると、生体リズムの位相は1時間後退する。
多くの人は、活動開始の時間帯(すなわち朝)に光を浴びる。すると、生体リズムの位相が1時間前進し、25時間の生体リズムが24時間に修正されて、地球の自転周期に合致するのだ。
実験動物の親時計を壊すと、睡眠のリズムや体温のリズムなど、生命活動のリズムが消えてしまう。ところが、その動物に毎日決まった時刻に餌を与え続けると、その時刻の前後の活動量が増える。さらには、その約12時間後に活動量が最も低下する(休息する)という、新しいリズムが現れることもわかっている。つまり、腹時計のリズムが親時計のリズムを作るのだ。また、食事を与えるタイミングと量を変化させる実験によって、「朝食をしっかり取る」ということが、体内時計の時刻合わせを行い、調和がとれた生体リズムを刻む上で大きな効果をもたらすということもわかっている。
時を刻む仕組みが壊れると、人は病気になってしまう。不規則な生活が続くと糖尿病やがんを発症しやすくなるほか、体内時計の不調が免疫力を低下させることも明らかになっている。
一日のパフォーマンスは、起床後1時間の過ごし方で決まる。
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