人が驚くような成果を挙げた人でも、それが生まれつきの才能によるものとは限らない。
剣道や歌舞伎に「型」があるように、発想にも「型」がある。型破りのように見える人であっても、しっかりした「型」を土台にしているから、それをもとに発展させられるのである。たとえば高い独創性で知られるピカソは、画家で美術教師の父親に指導を受け美術学校も出ており、多くの画家の影響を受けていることで知られる。また哲学の世界でも、ショーペンハウエルやニーチェは「本を読み過ぎると独創性が無くなる」という趣旨のことを書いてはいるものの、実際はさまざまな本の内容を吸収することで、哲学者としての思考スタイルを形成した。
型破りに見える人たちも、決してゼロから独創したのではない。「型」となる思考を吸収し、それを乗り越えていったのである。
日本の公教育には、自分の意見を生み出す「型」を学習する時間がない。教師が正解を教えるだけの授業が明治期から続いている。正解を伝授することが前提の教育では、「自分で考える」より「暗記」「試験対策」が中心になる。だが学問やビジネスの世界では、ひとつの決まりきった正解があるわけではない。ではどのように考えればいいのか。
物事を考える指針となるのが、思考の「型」である。思考の「型」にはさまざまな種類があるが、自分の意見を出すための「型」として、本書では「対比」という思考法を紹介する。対比は論文、小説、音楽、デザインなど、あらゆる場面において有効だ。というのも、じつのところ世界は対比構造であふれているからである。
課題について考える際、その課題が想定しているものと正反対のものを取り入れることで、突破口が見つかる――。これを「対極的対比」という。
赤城乳業の「ガリガリ君」も、この観点から見るとおもしろい。アイスは、フルーツ味などの甘いドリンクを凍らせて作るのが基本だ。そこにフルーツではなく、甘くないスープという正反対のものを入れ、コーンポタージュ味を発売したところ、これがヒットした。恐らくギリギリセーフを狙ったもので、イノベーションの定義「一見関係なさそうな事柄を結び付ける」を思い出させる。
赤城乳業のキャッチフレーズは「あそびましょ」。しかし、コーンポタージュ味のアイスもただのあそびではなく、過去の常識や定番に対するチャレンジであり、対極的対比を活用していると言える。
フィクション作品にも、さまざまな対比構造が見られる。そのなかには、前述の「対極的対比」もあれば、「似て非なる対比」も使われている。
「対極的対比」を使う典型例が手塚治虫作品だとしたら、「似て非なる対比」を使った典型例は石ノ森章太郎作品に見いだせる。手塚治虫の『鉄腕アトム』が人間とロボットという「対極的対比」を描いている一方で、石ノ森章太郎の『サイボーグ009』は、半分人間=「似て非なる対比」を描いているからである。実際に『サイボーグ009』の作中で、サイボーグ達が「ロボット」と呼ばれることを嫌がるシーンは多い。
「対比を出して中間を行く」思考法も、対比構造を有効活用した例のひとつである。両極端の意見をまず想定し、その中間から解を探るのだ。
このとき、「両極の中間」といっても、文字通り真ん中にあるとは限らないことに注意したい。
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