スタンフォードの心理学授業

ハートフルネス

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ハートフルネス
出版社
出版日
2020年10月31日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「ハートフルネス? マインドフルネスとどう違うのだろう」。多くの読者の頭にはこうした疑問が浮かんだのではないだろうか。本書の訳者によれば、ハートフルネスとは「集合的マインドフルネス」の実践であるという。

マインドフルネスは、ストレスの解消や自己実現、ビジネスでの成功といった具合に、個人のベネフィットで語られることが多い。しかし、その穏やかな波動は、周囲ににじみ出て、コミュニティに広がり、社会を変えていくポテンシャルを秘めている。その力を、コンパッション(慈悲・思いやり)と責任に結びつけて解き放つのが、ハートフルネスである。個人の成長を、社会の成長につなげる試みといってもよい。日本語では同じ「心」でも、マインドは思考能力であり、ハートは感情や感傷である。ハートフルネスは開かれたハートであり、思いやりでもある。

本書のベースとなっているのは、スタンフォード大学の心理学の授業における、ハートフルネスのさまざまな実践である。それらは最新の脳科学などのエビデンスにしっかり裏打ちされたものだ。

また本書には著者の個人史という側面もある。日本とアイルランドのバイレイシャル(混血)としてアメリカに生まれ、ふたつの文化にまたがり、アメリカ社会のマイノリティの一員として幾多の困難を乗り越え、成長してきた著者。そのありさまは、初心からハートフルネスに至る「道」の軌跡と重なるようだ。その「道」をぜひじっくりと味わっていただきたい。ハートフルネスの奥深さに目を開かされることだろう。

ライター画像
しいたに

著者

スティーヴン・マーフィ重松(Stephen Murphy-Shigematsu)
心理学者。スタンフォード大学ハートフルネス・ラボ創設者。
同大学ライフワークス統合学習プログラムの共同創設者。
日本で生まれ、アメリカで育つ。ハーバード大学大学院で臨床心理学博士号を取得。1994年から東京大学留学生センター(現国際センター)、同大学大学院の教育学研究科助教授として教鞭を執る。その後、アメリカに戻り、スタンフォード大学教育学部客員教授、医学部特任教授を務める。
現在は、医学部に新設された「Health and Human Performance」(健康と能力開発プログラム)で、教育イノベーションプログラムを開発。同プログラムでは、マインドフルネスに創造的な表現、変容をもたらす学びを統合させたハートフルネスを導入し、伝統的な智慧とアメリカの最先端科学を取り入れながら、EI(感情的知性)、生きる力や人間力を高める革新的な授業を行っている。スタンフォード大学で学生が優秀な教員をノミネートする優秀教員賞受賞。
また、アメリカ国内のみならず、ヨーロッパ、日本を含むアジアのさまざまな組織でハートフルネスの原理と価値観にもとづくプログラムを、多様性の受容、リーダーシップの育成、コミュニティの組織などのために提供している。
著書に『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』(講談社)、『スタンフォード式 最高のリーダーシップ』(サンマーク出版)、『多文化間カウンセリングの物語』(東京大学出版)などがある。 

本書の要点

  • 要点
    1
    ハートフルネスは、マインドフルネス、コンパッション(慈悲・思いやり)、責任の3つの基本的な要素から構成されている。
  • 要点
    2
    ハートフルネスを育てる8つの道とは、初心、ヴァルネラビリティ(開かれた弱さ)、真実性、つながり、深く聴くこと、受容、感謝、そして奉仕である。
  • 要点
    3
    ヴァルネラビリティとは、自分の弱さにていねいに触れ、未知、あいまいさ、不確実性、複雑性を受け入れることだ。
  • 要点
    4
    日本語の「しかたがない」は、変えられないことを受け入れることで、自分に可能な行動を見いだす積極的な態度である。

要約

ハートフルネス

教師としての原点
Yolya/gettyimages

本書は著者が祖母の智慧にふれたエピソードから始まる。20代の頃の著者は、心の声にうながされるまま、母親の故郷である日本に渡った。そして祖母としばらく一緒に暮らすようになった。その結果、家族に「変身した」といわれるくらい生き方が根本的に変わっていく。

祖母から教えられたのは、ありのままの自分を受け入れること、人生への感謝、自分の役割に力を尽くすべきことなどである。祖母のていねいな生き方、やさしさや責任感にもっとも近い意味の英語は何か。その探求を通じて著者がたどり着いたのが、「ハートフルネス(思いやりに満ちた心)」だ。これを学生たちに教えることが、教師としての著者の原点となり、目標となった。

私たちは、人類の生命、未来の世代ばかりか、この地球の存続までもが脅かされる危機的な状況のもとで生きている。物質的な繁栄を享受しながら、若者たちは苦悩の中にある。ある者はあてのない競争に心を捨て、盲目的に突進する。またある者は落ちこぼれて、世の中に幻滅している。この無力感は、世界中の多くの人が感じている「ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)」の反映なのだ。

3つの基本要素と8つの道

ハートフルネスは、マインドフルネス、コンパッション(慈悲・思いやり)、責任の3つの基本的な要素から成り立っている。そして、ハートフルネスを育てる道は次の8つだ。初心、ヴァルネラビリティ(開かれた弱さ)、真実性、つながり、深く聴くこと、受容、感謝、そして奉仕である。

ではマインドフルネスとハートフルネスはどのように違うのだろうか。マインドは思考能力であり、ハートは感情や感傷を意味する。マインドフルネスだけでも大きな効果が期待できる。だが、ストレスの解消や自己実現、個人の成功にとどまるならば、その真価は十分に発揮されているとはいえないだろう。

ハートフルネスは、自我を越えた大いなるものとのつながりによって、他者の人生をより良くすること、そして社会を変容させることをめざす。その意味で、思考能力と感情の両方を含む日本語の「こころ」という言葉は、この考え方を見事に包摂しているといえるだろう。

アヒル症候群

著者は心理学の教員としてスタンフォード大学の学生と接するようになった。そこで気づいたのが、彼らが「アヒル症候群」に陥っていたことだ。水面に浮かぶアヒルは静かに、滑るように苦もなく泳いでいるように見える。だが、水面下では激しく足を動かしているのが実情だ。

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要約公開日 2021.03.11
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