本書は著者が祖母の智慧にふれたエピソードから始まる。20代の頃の著者は、心の声にうながされるまま、母親の故郷である日本に渡った。そして祖母としばらく一緒に暮らすようになった。その結果、家族に「変身した」といわれるくらい生き方が根本的に変わっていく。
祖母から教えられたのは、ありのままの自分を受け入れること、人生への感謝、自分の役割に力を尽くすべきことなどである。祖母のていねいな生き方、やさしさや責任感にもっとも近い意味の英語は何か。その探求を通じて著者がたどり着いたのが、「ハートフルネス(思いやりに満ちた心)」だ。これを学生たちに教えることが、教師としての著者の原点となり、目標となった。
私たちは、人類の生命、未来の世代ばかりか、この地球の存続までもが脅かされる危機的な状況のもとで生きている。物質的な繁栄を享受しながら、若者たちは苦悩の中にある。ある者はあてのない競争に心を捨て、盲目的に突進する。またある者は落ちこぼれて、世の中に幻滅している。この無力感は、世界中の多くの人が感じている「ヴァルネラビリティ(傷つきやすさ)」の反映なのだ。
ハートフルネスは、マインドフルネス、コンパッション(慈悲・思いやり)、責任の3つの基本的な要素から成り立っている。そして、ハートフルネスを育てる道は次の8つだ。初心、ヴァルネラビリティ(開かれた弱さ)、真実性、つながり、深く聴くこと、受容、感謝、そして奉仕である。
ではマインドフルネスとハートフルネスはどのように違うのだろうか。マインドは思考能力であり、ハートは感情や感傷を意味する。マインドフルネスだけでも大きな効果が期待できる。だが、ストレスの解消や自己実現、個人の成功にとどまるならば、その真価は十分に発揮されているとはいえないだろう。
ハートフルネスは、自我を越えた大いなるものとのつながりによって、他者の人生をより良くすること、そして社会を変容させることをめざす。その意味で、思考能力と感情の両方を含む日本語の「こころ」という言葉は、この考え方を見事に包摂しているといえるだろう。
著者は心理学の教員としてスタンフォード大学の学生と接するようになった。そこで気づいたのが、彼らが「アヒル症候群」に陥っていたことだ。水面に浮かぶアヒルは静かに、滑るように苦もなく泳いでいるように見える。だが、水面下では激しく足を動かしているのが実情だ。
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