「探究」する学びをつくる

社会とつながるプロジェクト型学習
未読
「探究」する学びをつくる
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社会とつながるプロジェクト型学習
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「探究」する学びをつくる
出版社
出版日
2020年12月02日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

世界の将来を担う子どもたちが今受けている教育は、果たして将来に本当に必要とされる能力を養うことができているのだろうか。今の学校の形式が広まったのは、実は工場労働を中心とした産業に非常に都合がよかったためであったことは、あまり知られていないように思う。工場労働からより自由な働き方へとライフスタイルが変化しても、教育手法だけはそのまま取り残され、現在は経済格差や教育の格差が課題とされている。

課題を抱えるのは日本だけではない。大学への進学が将来の経済状況に直結しやすいとされるアメリカで設立された学校である「ハイ・テック・ハイ」は、将来社会で必要とされる学びと大学進学の2つを両立させるための取り組みを行ってきた。同校の「プロジェクト型学習」(PBL)と呼ばれるその手法を、いち早く日本に導入したのが本書の著者だ。

この本は、めまぐるしく変化する現代において、ハイ・テック・ハイ校が出した1つの教育のありかたを紹介するものである。家庭環境も多様で、その身体的・認知的能力も多様な子どもたちに対して、徹底して自分の役割への認識と他者への尊重を貫く人々の姿勢は、決して理想論にとどまらない。同校が目指す「公正」な社会を実現する、「探究」を共通項とした学びの奥深さと可能性を感じてほしい。社会を生きる責任ある大人として、子どもたちへ示すありかたを模索したいと考えるならば、本書が有益な手がかりとなるにちがいない。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

藤原さと(ふじわら さと)
一般社団法人こたえのない学校代表理事。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。コーネル大学大学院修士(公共政策学)。日本政策金融金庫、ソニーなどで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。仕事をしながら子育てをするなかで「探究する学び」に出会い、2014年、一般社団法人こたえのない学校を設立。小学生向けの探究型キャリアプログラムを実施するほか、学校教育に携わる教師と学校外で教育に携わる多様な大人が出会い、チームで探究プロジェクトを実施する「Learning Creator’s Lab」を主宰。2018年、経済産業省「未来の教室」事業の採択を受け、世界屈指のプロジェクト型学習を行う「High Tech High」の教員研修プログラムの日本導入に携わる。

本書の要点

  • 要点
    1
    ハイ・テック・ハイは理念に公正性を掲げ、子どもたちが集い、その身体的・認知的能力にかかわらず等しく価値ある人間だと感じられることを目指す学校である。ここでは、プロジェクト型学習が学びの中心に据えられている。
  • 要点
    2
    プロジェクト型学習の上位概念が「探究」である。探究する学びは、生徒が自らの経験と理解をもとに自らの意味合いを構築する価値観に基づく。この学習で身につける実験のプロセスや試行の方法は、テストが終わったら忘れてしまう知識とは異なり、一生の財産となりうるものである。

要約

ハイ・テック・ハイという学校

チャータースクールとしての設立
Courtney Hale/gettyimages

「Most Likely to Succeed(これからの学校の役割)」という教育ドキュメンタリー映画がある。この映画は2015年1月にアメリカで公開されて以来、日本でも45都道府県で500回以上の上映会が行われている。

この映画の中では、「生涯にわたってあなたの人生を豊かにする本当の学びとは何か」という問いに対する向き合い方が紹介されている。映画のモデルとなっているのは、アメリカはサンディエゴに位置する、ハイ・テック・ハイという公立校である。ハイ・テック・ハイは、アメリカで1990年代から広まっているチャータースクールという学校形態をとる。

チャータースクールは、従来の公立学校では解決が期待できない教育問題に取り組むため、親や教員、地域団体などが設立趣意書(チャーター)を作成し、州や学区の認可を受けて運営されている学校のことを指す。一般の公立学校とは異なる方針・方法に基づいた柔軟なカリキュラムが可能な一方、学力テストなどの教育的成果は定期的に評価され、一定の成果がなければチャーターを取り消される。

ハイ・テック・ハイの学びは現在全米でも注目されており、学校には年間約5000人の参観者を受け入れ、付属の教育大学院では毎年1500名以上に研修が行われている。

ハイ・テック・ハイの学校デザイン

ハイ・テック・ハイで最も重要な考え方は、「ハイ・テック・ハイは公正性に向けてのプロジェクト」であることである。

ここでの「公正(Equity)」とは、人種や性別や、性的な意識や、身体的もしくは認知的能力にかかわらず、同じように価値ある人間だと感じられることを指す。似た言葉に「平等」があるが、これはどんな人であっても「同じ」ものを与えるのに対し、公正は人の違いに応じて「同じ結果」となるように導くことをいう。

ハイ・テック・ハイは入学者選考にあたり、人種や家庭の経済状況、ジェンダーなどについて多様な子どもたちが集まるようにしている。たとえば家庭環境に応じて、美術館に行ったことがなかったり、海や山での経験が少なかったりする子どもたちがいることがあらかじめ想定される。単元の始めの段階で学校の外に出るなど、みんなが同じベースでプロジェクトを行えるような地ならしがなされるのだ。

また、ハイ・テック・ハイでは子どもたちに、「自分にとって」「友達や先生、学校にとって」「学校の外の世界にとって」意味のある学びをするように求める。ハイ・テック・ハイではフィールドワークなど現実社会の中で「何かをつくる」プロジェクトが学びの中心に据えられており、さまざまな特性を持つ子どもたちが、お互いを尊重し合いながら自分の役割を選択することができる。

【必読ポイント!】 プロジェクト型の学び

探究とは何か
Rawpixel/gettyimages

プロジェクトを中心とした学び方をPBLといい、日本ではプロジェクト型学習と訳される。PBLにはハイ・テック・ハイが採用する「プロジェクト型学習」の他にも「課題解決型学習」という手法があるが、そのどちらにも「探究する」という概念は共通だ。

探究する学びは、外から知識を与えガイドするという「伝達的価値観」というよりも、生徒が自らの経験と理解をもとに自分で学びを構築するという「構成的価値観」に基づく。

思想家のジョン・デューイによれば、探究とは不確定な状況に始まり、確定的な状況に移行し、そのサイクルを回転させることを基本構造としている。例を挙げると、理科の授業で、教科書を参考に与えられた手順で実験を行うことは探究にはならない。

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要約公開日 2021.03.17
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