「Most Likely to Succeed(これからの学校の役割)」という教育ドキュメンタリー映画がある。この映画は2015年1月にアメリカで公開されて以来、日本でも45都道府県で500回以上の上映会が行われている。
この映画の中では、「生涯にわたってあなたの人生を豊かにする本当の学びとは何か」という問いに対する向き合い方が紹介されている。映画のモデルとなっているのは、アメリカはサンディエゴに位置する、ハイ・テック・ハイという公立校である。ハイ・テック・ハイは、アメリカで1990年代から広まっているチャータースクールという学校形態をとる。
チャータースクールは、従来の公立学校では解決が期待できない教育問題に取り組むため、親や教員、地域団体などが設立趣意書(チャーター)を作成し、州や学区の認可を受けて運営されている学校のことを指す。一般の公立学校とは異なる方針・方法に基づいた柔軟なカリキュラムが可能な一方、学力テストなどの教育的成果は定期的に評価され、一定の成果がなければチャーターを取り消される。
ハイ・テック・ハイの学びは現在全米でも注目されており、学校には年間約5000人の参観者を受け入れ、付属の教育大学院では毎年1500名以上に研修が行われている。
ハイ・テック・ハイで最も重要な考え方は、「ハイ・テック・ハイは公正性に向けてのプロジェクト」であることである。
ここでの「公正(Equity)」とは、人種や性別や、性的な意識や、身体的もしくは認知的能力にかかわらず、同じように価値ある人間だと感じられることを指す。似た言葉に「平等」があるが、これはどんな人であっても「同じ」ものを与えるのに対し、公正は人の違いに応じて「同じ結果」となるように導くことをいう。
ハイ・テック・ハイは入学者選考にあたり、人種や家庭の経済状況、ジェンダーなどについて多様な子どもたちが集まるようにしている。たとえば家庭環境に応じて、美術館に行ったことがなかったり、海や山での経験が少なかったりする子どもたちがいることがあらかじめ想定される。単元の始めの段階で学校の外に出るなど、みんなが同じベースでプロジェクトを行えるような地ならしがなされるのだ。
また、ハイ・テック・ハイでは子どもたちに、「自分にとって」「友達や先生、学校にとって」「学校の外の世界にとって」意味のある学びをするように求める。ハイ・テック・ハイではフィールドワークなど現実社会の中で「何かをつくる」プロジェクトが学びの中心に据えられており、さまざまな特性を持つ子どもたちが、お互いを尊重し合いながら自分の役割を選択することができる。
プロジェクトを中心とした学び方をPBLといい、日本ではプロジェクト型学習と訳される。PBLにはハイ・テック・ハイが採用する「プロジェクト型学習」の他にも「課題解決型学習」という手法があるが、そのどちらにも「探究する」という概念は共通だ。
探究する学びは、外から知識を与えガイドするという「伝達的価値観」というよりも、生徒が自らの経験と理解をもとに自分で学びを構築するという「構成的価値観」に基づく。
思想家のジョン・デューイによれば、探究とは不確定な状況に始まり、確定的な状況に移行し、そのサイクルを回転させることを基本構造としている。例を挙げると、理科の授業で、教科書を参考に与えられた手順で実験を行うことは探究にはならない。
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