人間の社会生活の起源は、どこから生まれてくるのだろうか? 協力、団結、階級、友情、そして道徳感覚などは、人間がもともと備えている特質なのだろうか?
発達心理学者はさまざまな実験により、わずか生後3カ月の赤ん坊にも公正性や互恵主義といった、人が協力するために不可欠の要素を感じ取る力があることを証明してきた。
ある実験では、よちよち歩きの幼児が戸棚をなかなか開けられないふりをしている大人を自発的に手伝った。赤子を対象とした別の実験では、誰かを邪魔している様子より助けている様子のほうが好まれた。要するに、きわめて幼くても人間は他者の意を汲み、積極的な姿勢で他者と交流し、公正であろうと心を砕く傾向にあるのだ。
私たちがこのような人間社会が共有しているものを簡単に見失ってしまうのは、生活様式や文化、信念などが、あまりにも多様なためだ。細かく見れば人間の行動は地域によって異なるかもしれないが、社会の類似性はその相違点よりも大きい。スポーツ活動、夢の解釈、性行為といった普遍的特性は、「人間の基本的な生物学的・心理的特質と、人間存在の普遍的条件」に根ざす共通の土台を構成していることを、文化人類学者は見出してきた。
人間社会は人智を超えた力がつくるものでも、権力者がつくるものでもない。私たちの内部から現れるのだ。
一致団結して社会を形成する能力は、実は人類の生物学的特徴であり、直立歩行の能力とまったく同じである。あらゆる社会の核心には、個人のアイデンティティを持つ、またそれを認識する能力があり、パートナーや子どもへの愛情や、交友、自分が属する集団への好意、そして社会的ネットワークや協力といった側面が存在する。また、ゆるやかな階級制(すなわち相対的な平等主義)や、社会的な学習と指導といった要素も含まれる。これらを「社会性一式」と呼ぶことにしよう。人類の進化上の遺産から導き出されるもので、私たちの遺伝子に部分的に暗号化されている。
これらの特徴は個人の内部から生じるが、集団の特徴ともなる。一体的に働くことで機能的で永続的になり、さらには道徳的に善い社会さえつくりだす。
進化論的に言えば、私たちは愛情のおかげで、近親者のみならず血縁のない個人に対しても特別なつながりを感じるようになり、他人とのあいだに生殖とは無関係な長期的つながり、つまり友人を形成する。その関係を通して社会ネットワークに参加し、あらゆる場所で人間同士が協力する。それは社会的学習を促し、教えてくれる人や多くのつながりを持つ人に敬意を払うようになって、ゆるやかな階級制度ができる。
このような人間社会の基本的な特徴は、「青写真」(ブループリント)に導かれている。社会生活の青写真は私たちの進化の所産であり、DNAというインクで描かれている。人間はこれを逸脱することもできるが、逸脱が過ぎれば社会は崩壊する。
孤島に取り残された船員が形成した社会組織を検討することで、多くのことを学ぶことができる。この意図せざるコミュニティは「社会をつくる」という自然実験となる。
19世紀の半ば、ほぼ同時期にニュージーランドのオークランド島に漂着した2隻の難破船の乗員たちは、お互いを知ることなくサバイバルを始めた。一方は全員が2年近く生き延びたのち救助されたが、もう一方の者たちは1年足らずで大部分が死亡した。
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