理想のリスニング
理想のリスニング
「人間的モヤモヤ」を聞きとる英語の世界
理想のリスニング
出版社
東京大学出版会

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出版日
2020年10月09日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

一読して、「こんな面白い英語学習の本にめぐり会ったのははじめてだ」という感想を抱いた。

英語の勉強は、なにから始めるべきか? 語学の習得に手間と時間がかかるのはわかっているとしても、なるべく効率的に、手っ取り早く「スキル」を獲得したい、そう考えているビジネスパーソンは少なくないだろう。要約者も、多くのビジネスパーソンと同じように英語力向上の必要性を感じつつ、なかなか時間が取れずに学習が進まない、という悩みを持つ一人である。

これまでの英語学習法、とくにリスニングについて書かれた本の多くは、「とにかく量をこなして、習うより慣れろ」と言っているか、もしくは「基本表現や文法をしっかり学んで、段階的に熟達しよう」と言っているものに大別できた。だが本書には、この二分法にあてはまらない内容が著されている。

多くの日本人が感じているだろう「ネイティブの英語は早口」とか、「弱く喋っている部分が聞き取れない」ことの理由について、本書ほど明快に解説している書はあまりないのではないだろうか。

「こういうところに気を付ければ、もっと効率的に、そして楽しく英語が学べる」という方向性を示し、英語学習に向かうモチベーションを高めてくれる書である。英語力の伸び悩みを抱えるビジネスパーソンに、ぜひ一読をおすすめしたい。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

阿部公彦 (あべ まさひこ)
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授。専門は英米文学研究。1966年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。ケンブリッジ大学大学院PhD取得。著書に『モダンの近似値』『即興文学のつくり方』(以上、松柏社)、『英詩のわかり方』『英語文章読本』『英語的思考を読む』(以上、研究社)、『スローモーション考』(南雲堂)、『小説的思考のススメ』『詩的思考のめざめ』『善意と悪意の英文学史』(以上、東京大学出版会)、『文学を〈凝視〉する』(岩波書店、サントリー学芸賞受賞)、『幼さという戦略』(朝日選書)、『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房)、『名作をいじる』(立東舎)など。翻訳に『フランク・オコナー短編集』マラマッド『魔法の樽 他十二編』(以上、岩波文庫)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    英語でよどみなさ、流暢さが評価されるのは、その方が聞き手にとって内容が頭に入りやすく、心地良いからだ。私たちは「よどみなさの価値がわかる聞き手」をめざすべきだ。
  • 要点
    2
    英語は強音節と弱音節の繰り返しで構成される。リスニングで重要なのは、すべてを聞いて理解しようとするのではなく、「強」の部分を重点的に聞いて勘所をとらえることだ。
  • 要点
    3
    実際の会話では、目的や認識のすり合わせ無しにコミュニケーションは成り立たない。英語学習においても、自分がどんな仮定を置き、何を相手に問うているのかというやりとりの学習が重要となる。

要約

【必読ポイント!】 「聞くこと」の深み

英語が「うまい」とは?
gettyimages/Studio-Prostock

英語学習においては、「読む・書く・聞く・話す」という四技能を万遍なく習得することが目標とされる。しかし「聞く」という技能は受動性が高く、意識的に行うことが難しい。言語の習得で必ずぶつかる壁を越えるためには、「聞く」を通した「受動の技術」の鍛錬が必要だ。

そもそも英語が「うまい」とはどういうことか? 「ぺらぺら」という表現が使われるように、よどみなく喋ることがひとつの目標になっている。一方で日本語だと、それはあまり重視されていない。

なぜ英語だと、よどみなさが評価されるのか。それは聞く側にとって「心地良い」からではないか。その方がわかりやすく、内容が頭に入りやすいからであり、また話し手に好印象を与えるからでもある。

私たちが英語学習においてまずめざすべきは、「ぺらぺらの話し手」ではなく、「よどみなさの価値がわかる聞き手」なのだ。

英語はどう聞こえるか

どの英語の教科書にも、「英語にはストレス・アクセントがある」「ストレスの置かれる強音節と置かれない弱音節が英語の音の土台をつくっている」と書かれている。

この「強・弱」の組み合わせにはいくつかのパターンがあり、特に「弱・強/弱・強……」というリズムは日常会話でもよく使われる。強と強の間の長さは音節数にかかわらず、だいたい同じくらいに聞こえるとされる。そのため私たちは、強と強の間に多くの音節がはさまっているフレーズを聞くと、「弱いところが続くと聞き取りにくい」と考えてしまう。

しかし「弱」が続く部分は、わざと聞き取りにくくしているのではない。大事なのは、強い音節と弱い音節を、メリハリをつけて言うことだ。そのほうが聞き方がわかっている人にはちゃんと伝わり、コミュニケーションが円滑になされるのである。

間違えやすいのは「否定が関係するところ」

英文は「強・弱/弱・強……」という繰り返しだ。

キング牧師の演説「I have a dream」では、「One hundred years later……」という出だしが繰り返され、論点がリスト化されている。英語ではこのような列挙や反復表現を日常会話でもニュースでも、よく耳にする。

しかし列挙や反復をとらえるとき、私たちが間違えやすいのは何といっても否定が関係するところであり、これと密接に絡むのが仮定法だ。いくつもの話のうち、どれが肯定され、どれが否定されているか、どれが仮定の話なのか、わからなくなることがある。

話し手の意向を正しくとらえるには、「強」と「弱」の交代するリズムから、最終的な強調ポイントを間違いなく受け取ることが大事になる。

リスニング練習の秘術とは

「ぶつ切り」ディクテーション
maroke/gettyimages

リスニングには長時間の練習が大事だが、どうしても単調で退屈になりがちだ。わかるようでわからないような感じが、「おもしろくない」という感想に至ってしまう。

そこでおすすめしたいのが、英語教授法を専門とする靜哲人氏の提案する「ぶつ切り直前ディクテーション」と「ぶつ切りすぐあとディクテーション」だ。

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要約公開日 2021.02.08
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