国際政治を「劇」とすれば、地政学は「舞台装置」だ。国際政治を冷酷に見る視点やアプローチとして、ここでは6つの基本的な概念を紹介する。これらの見方を理解することによって、衝突が頻発するエリアにおける、それぞれの国のふるまいが理解できるようになるだろう。
一つ目は「コントロール」だ。大国は自国を優位な状況に置きながら、相手国をコントロールすることを常に考えている。この視点を忘れてはいけない。
二つ目は「バランス・オブ・パワー」、つまり勢力を均衡させようとする国際関係のメカニズムである。この行動原理を理解することが重要である。たとえば大英帝国時代のイギリスは、世界中の国と戦ったわけではない。ヨーロッパで強大な国が登場したときのみ、周辺国と協力しながら戦って勝利し、世界の覇権を守ってきたという歴史がある。
三つ目は、「チョーク・ポイント」を押さえること。国際間での大規模な物流(たとえば石油など)は、すべて海路で行われている。多くの船が通らざるを得ない海上の関所である運河や海峡を押さえることで、他国より優位に立つ戦略だ。
四つ目は、「ランドパワー」と「シーパワー」である。「ランドパワー」とはユーラシア大陸にある大国を指し、ロシア、中国、ドイツ、フランスなど陸上戦力に強みを持つ国のことだ。一方の「シーパワー」は、イギリス、日本といった海洋国家に加え、大きな島国と考えられるアメリカのことを指す。歴史的に大きな国際紛争は、常にこのランドパワーとシーパワーのせめぎ合いのなかで起きていることがわかっている。
五つ目は、「ハートランド」と「リムランド」という考え方だ。ユーラシア大陸の中心エリアを「ハートランド」と呼ぶ。厳しい環境の「ハートランド」の国は、その周縁(リム)にある「リムランド」の国々へ侵攻することを常とする。朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争は、まさに両勢力が衝突して起こった戦争だといってよい。
最後は「拠点」の重要性だ。たとえば沖縄の米軍基地は、主に中国や北朝鮮に影響力を持つための拠点だ。ほかにも米軍は、インド洋のディエゴ・ガルシア島やドイツのラムシュタインなどにも大規模な拠点(基地)を展開しながら、対抗勢力であるイランやロシアを監視している。一方で急成長する中国も、いま南シナ海に続々と拠点を築きつつあり、周辺国やアメリカと対立構造を生んでいる。
これら6つの視点・アプローチを持つと、世界情勢の背景が理解できるようになる。
日本の歴史を振り返ると、江戸時代までの海外との衝突は、たった3回である。つまり飛鳥時代の「白村江の戦い」、鎌倉時代の「元寇」、そして安土・桃山時代の豊臣秀吉による「朝鮮出兵」だけだった。
衝突が少なかったのは、日本が自給可能な面積を持つ島国で、海外から攻めづらかったからという理由が大きい。そのうえ、ヨーロッパから遠いという地理環境も良かった。だから明治時代においても、産業を発達させる時間を稼ぐことができ、日本は軍事力をつけられたのである。中国のように植民地にならずに、独立を維持できたのもこのためだ。
北方領土はなぜロシアから返還されないのか。理由は三つある。
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