日ごろから、自らの死を意識して生活している人は少ない。人は人生が永遠に続くかのように日々を生きている。だからこそ未来に希望を抱き、老後に備えて貯金をするのだ。これは一見すると合理的な行動である。だがその結果、喜びを先送りにし、やりたいことを我慢してはいないだろうか。
何人たりとも時間には抗えない。だからこそ、限られた時間の中で幸福を最大化するために行動すべきだ。そしてそのタイミングは「今」である。お金を無駄にするのを恐れ、チャンスを逃しては本末転倒だ。大切なのは、どうすれば幸せになれるかを考え、そのために惜しまずお金を使うことである。そして適切なタイミングで、ふさわしい経験をすることで、人生は豊かになる。老後のために貯金するのも決して悪いことではない。だがそれに固執していては、貴重な時間を浪費しかねない。
お金はライフエネルギーだ。ライフエネルギーとは、何かをするために費やすエネルギーのことを指す。たとえば仕事は、「ライフエネルギーを消費する代わりに、お金を手にする活動」と言い換えられる。収入と時間、カロリーと運動などは、トレードオフの関係にある。
このライフエネルギーを意識すると、衝動買いや悪い生活習慣を見直すことができる。「30万円の時計は何時間分の労働に値するのか」、「目の前のクッキーのカロリーを消費するために、どれくらい走らなければいけないのか」など、ライフエネルギーとして計算できるようになるからだ。
とはいえ、節約ばかりしているのも考えものだ。その時しかできない経験の機会を失ってしまうと、世界が必要以上に小さな場所になってしまう。そうならないためにも著者が提唱するのは、本書のタイトルでもある「ゼロで死ぬ」ということだ。必要以上にため込むのではなく、今しか味わえない経験に時間と金を費やす。これを突き詰めると「ゼロで死ぬ」というところに行きつく。
著者が20代の頃、ルームメイトが旅行資金を工面するために多額の借金をした。当時の著者には、その行動がはなはだ理解できなかった。そのルームメイトはこれといった予定を決めず、単身ヨーロッパへ旅立った。
数カ月後、戻ってきたその彼は、体験談を聞かせたり、写真を見せたりして、旅によって人生がいかに豊かになったかを著者に説き、「返済は大変だったが、旅で得た経験に比べれば安いものだ。だれもあの経験を僕からは奪えない」と語った。
このエピソードからわかるのは、「経験がいかに大切か」ということだ。人生は経験の総量によって決まる。私たちは小さい頃から、「いざという時のためにお金を貯めよう」と聞かされて育つ。しかし勤勉に働き、喜びを先送りすることだけが美徳ではない。人生に最後に残るのは思い出だけだ。だからこそ、早いうちに様々な経験をすることが重要なのだ。思い出は金融投資と同様、私たちに配当を与えてくれる。その瞬間の喜びだけでなく、あとから振り返ることで、当時の風景や感情を追体験できる。これはかけがえのない宝物だ。そして人生の早い段階で最良の経験を積めば、思い出の配当をより多く得られるのである。
出社前にコーヒーショップに立ち寄り、決して安くないコーヒーを毎日買う習慣を持つ人は少なくない。だがコーヒーに支払うお金を貯めれば、旅行にだって行けるはずだ。
習慣によって行動する、いわゆる自動運転のような生き方は、考えることも少ないので楽である。だが人生を楽しむためには、無意識的にとっている行動を止め、自らの意思で進むべき道を歩むべきではないか。言い換えれば、お金と時間の使い方をよく考えて日々の選択をすべきなのだ。
仕事も同様である。仕事をすればお金は手に入るが、それだけ時間を費やさなければならない。また、いくらお金を稼いだとしても、使い切れないほどため込むのは、決して賢い行動とはいえない。
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