グーグルは2000年のはじめ、「検索結果をいくつ表示すべきか」という実験を行なった。研究者たちは利用者に対して、結果を10件、20件、30件と変えながら調査をした。その結果、検索結果を増やすとトラフィックが大きく減ることがわかった。その原因は、検索結果の表示にかかる「時間」だ。たった0.5秒でもロードに時間がかかるだけで、トラフィックに大きな影響を及ぼしたのである。
この実験には、多くの教訓が含まれている。それはデジタル世界で生き残るためには、「粘着性」が重要ということだ。粘着性とは、利用者を惹きつけ、何度でもくりかえし戻って来てもらう能力を指す。そしてこれは累積ではなく、累乗で加算されていく。成長の初期段階におけるわずかな優位性(たった0.5秒の読み込み時間のような)が、のちに大きな差へとつながっていく。
グーグルは粘着性を追求した結果、世界で最も価値のある企業のひとつへと成長した。今やグーグル、フェイスブック、マイクロソフト、ヤフー! が、ウェブ訪問の3分の1を占めている。さらに2016年時点では、グーグルとフェイスブックがデジタル広告シェアの7割以上を占有している。
アメリカ・オレゴン州の工業団地に2006年、グーグルが大規模なメガデータセンターをつくった。このコンピューター倉庫は他の工場と並んで鎮座しており、高電圧から何メガワットの電力が日々送り込まれている。こうしたメガサーバーをグーグルは世界で20カ所以上も保有しており、他のデジタル企業もこのようなサーバーファームを持っている。その投資額は、一国のGDPをも上回る規模だ。インターネットが「ポスト工業技術」と呼ばれて久しいが、見た目はまさに工場のそれだ。
データセンターでは、途方に暮れるような複雑なプログラムが機能している。これにより複数のサーバー間で、シームレスにデータを動かせるようになっている。また、サーバーなどのインフラが整備されれば、ソフトウェアの構造も巨大になり高速化させることもできる。これにより、何万台ものマシンがGmailやYouTubeといったさまざまなアプリケーションを同時に運用できるようになった。
さらに、世界中に自前の光ファイバーを張り巡らせ、データの送受信の速度も高速化した。インフラが巨大化すると、小規模なデータセンターと比べて運用にかかる電気料金も割安となる。このように従来の産業と同じく、インターネットにおいても規模の経済がはたらくのだ。
グーグルのインフラ投資が、どうオンライン上での粘着性につながっていくのかを見てみよう。グーグルの優位性として、「計算力」と「ネットワーク規模」が挙げられる。たとえば、グーグルは2004年にGmailを立ち上げた。当時、他社のメールサービスが提供するデータ容量は4メガバイト程度だった。しかしGmailは、1アカウントに対して1ギガバイトの容量を与えた。250倍もの容量を提供できたのは、大規模なインフラだからこそできることだ。グーグルはかつてから、「速いほうが遅いよりよい」と謳っていた。動画の読み込みが遅ければ、ユーザーはほかのページへ移ってしまう。いくらすぐれた新機能を開発できても、それが検索を遅延させるものなら、それを捨ててしまうことすらあるという。
そのためグーグルの検索結果においても、各サイトの読み込み速度が検索順位を決定づけるひとつの指標となっている。「速度」は疑いなく、ユーザーがそのサイトを気に入るかの分水嶺となる。仮にグーグルが読み込みの遅いサイトを検索結果に出せば、閲覧者はその間に別のことをし始めてしまうかもしれない。小規模サイトではただでさえ速度が遅くなりがちなのに、さらにそこにグーグルによるペナルティが科される。このように速度による順位付けという仕組みは、インフラの整った大規模サイトの優位性をさらに高めていくのだ。
あるグーグルのデザイナーが、次のような理由で会社を退職した。
3,400冊以上の要約が楽しめる